研究課題/領域番号 |
12J04505
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
當山 奈那 琉球大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 琉球語 / 首里方言 / ヴォイス / ベネファクティブ / 使役 / 授受 / 受動 / 記述文法 |
研究概要 |
24年度は、首里方言の文法について、先行研究をふまえながら動詞を中心に、文法体系の全体の記述の枠組みの構築を行った。動詞に関する調査は、これまでの先行研究が少ないアスペクチュアリティ、モダリティ、ヴォイスなどの構文論的なカテゴリーに関わる言語現象を中心に行った。さまざまなタイプの談話資料からデータを取り出す作業と併行して、調査対象者に定期的な調査を実施し、データを収集・分析した。その上で、首里方言における動詞の文法体系についての記述を進め、研究成果をまとめた。研究成果は学会や沖縄県内で開催される研究会で発表して、意見交換を行い、2年目以降の研究に繋がるように努めた。 今年度は、調査を行いながら、特にヴォイス、ベネファクティブに関する知識を深めた。ヴォイスに関わる形式である受動や使役、授受(シテモラウ表現)は動作主体ではない人間を主語の位置にすえるという点で共通しており、首里方言では、主語の人間が利益を受け取ることを表現するシテモラウ表現がそもそもなく、使役文を使用するのがふつうである。また、主語の人間にとって迷惑な出来事を表現する場合においても、首里方言の場合は使役文で現れる事がある。さらに、興味深いことに、それぞれの使役動詞はすべて別の形式を用いてあらわされることが分かった。このように、ヴォイスに関わる構文については、分析を進めると利益性や不利益性(ベネファクティブ性)の問題も絡みながら複雑に存在している有様がみえてきた。 また、首里方言の他動詞派生接尾辞=asuNと第一使役動詞派生接尾辞=asuNは同音形式であるが、自他動詞および使役動詞の派生の制限と使役文が実現する意味、他の琉球語諸語の先行研究から、同音形式の二つの接尾辞=asuNが同じものである可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主旨である首里方言の記述文法について、先行研究の理論はほとんど確認できており、それらに基づいた報告者自身の理論も確定している。また、予定通り、方言資料による用例の収集と定期的なフィールドワークによる用例の収集を行っており、現在、その分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1年目にまとめた動詞に関する研究成果を確認しながら、フィールド調査や資料によるデータ収集を引き続き行い、ヴォイス、アスペクトの記述を充実させると同時に、名詞、形容詞、副詞についての調査・分析を行う。ヴォイスはやりもらい形式をベネファクティブ形式と呼び、受動、使役も含めたべネファクティブ(利益性)の観点から分析を行う。これまで取り組んできた他動性や行為項派生の問題も視野にいれ、研究を深化させる。また、琉球語は現代日本語と比べると形容詞が発達していないといわれるが、動詞や名詞、他の品詞が形容詞的な性格を担っている可能性がある。そのため、動詞・名詞・形容詞・副詞各品詞の記述と分析にあたっては、単語の表現形式と文法的な意味、文中で果たす機能などを考察して、詳細な記述に努める。
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