研究課題/領域番号 |
12J04525
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
ユ リラ 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 比較認知科学 / 社会的認知 / 同調行動 / タッピング課題 / ヒト / チンパンジー / イルカ |
研究概要 |
ヒトでは、歩行のリズムや話すスピードが、しばしば複数人の間で同調する。これは親和性を高める機能を持っていることが報告されている。こうした同調行動の進化的起源を探るうえで、社会性が高く、ヒトにもっとも近縁な種であるチンパンジーを対象に同調行動を分析することは非常に重要である。しかし、これまでチンパンジーの同調行動を実験的に詳細に分析した研究は皆無である。そこで、本研究では、左右に交互に呈示される刺激を触る「タッピング課題」を用いて、チンパンジーの同調行動を分析している。 本年度は、二個体のチンパンジーが同時にタッピング課題をおこなう場面を設定し同調行動が生じるかを分析した。なお、本実験では、二個体が隣接して課題をおこなうようにし、他個体の運動情報は視覚ではなく、タッピングに随伴する音を通して知覚されるようにした。また、ヒトでも同じ状況で実験をおこなった。実験の結果、ヒトにおいては同調行動が観察されたが、チンパンジーでは見られなかった。しかし、チンパンジーにおいても、単独でタッピングするときとくらべると、タッピングの速度が変化することが確認された。この結果は、同調は生じないものの、チンパンジーも他個体の行動を無視しているわけではないことを意味している。 さらに、本年度は、野生のイルカ(御蔵島)や野生のチンパンジー(ギニア、ボッソウ)の行動観察もおこなった。両種において、自発的な群れの移動時に同調の可能性を持つ行動が観察できた。野生のチンパンジーでは、多くの社会的行動において、「相手を見る」ことが次の自身の行動になんらかの影響を与えていることに気が付いた。この示唆をもとに、25年度には積極的にお互いが見える対面場面を設定し、二個体のタッピング課題をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同調行動を実験的に詳細に分析するために用いたタッピング課題は、リズミカルな運動を安定的に実験室で出すことができた。今のところ、二個体のチンパンジーの間で同調行動が明らかに現れる実験条件はまだないが、野生のチンパンジーや野生のイルカの行動を観察することで、社会的な脈絡を考慮したうえで同調行動の出現を考えていく力を得られた。したがって、本年度はおおむね順調に研究が進展していると思う。
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今後の研究の推進方策 |
野生で観察・記録したチンパンジーやイルカの行動を再検討し、実験条件として応用できるものは積極的に取り入れる。分析は、自発的な同調行動にさらに適切した分析方法で行う。
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