研究課題/領域番号 |
12J04542
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田崎 郁子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 山地 / 農村 / 農的世界賛美の潮流 / タイ / カレン / 少数民族 / バプテスト宣教 / ユネスコ世界遺産 |
研究概要 |
本研究の目的は、山地民と呼ばれてきた少数民族カレンの生活変容を、タイ社会において農的世界が賛美されるようになってきた歴史的・社会的過程から、明らかにすることである。それによって、山地社会の位置づけや生活全体が、従来の「山地」という枠組みから「農村」へと移行しつつある、という新しい見方を提示する。 1年目である24年度は、文献精読による理論的考察と、カレンの焼畑のユネスコ世界遺産登録やバプテスト宣教によるカレンの生活再編に関する文献収集とフィールド調査を行い、これらを元に学会発表を行った。現在、以下の2つの内容について投稿論文を執筆中である。 年度前半は、タイ社会において農的世界が賛美されるようになってきた潮流の歴史的・社会的な形成過程について、京都大学で文献を読みこんだ。これと過去に行った長期調査の結果を踏まえて、日本文化人類学会の発表では、カレンのコミュニティとそれを形作るリーダーシップの動態を、民族間関係や生業との関連から明らかにした。 年度後半は、タイ国のカレンに対するキリスト教宣教活動が村の経済活動や社会関係に与えた影響を考察した。1月・2月にはタイへ渡航し、バプテスト教会において1950年代以降の農業開発がどのような思想の元に行われてきたのか、パヤップ大学アーカイブを中心に文献を収集した。またカレンの行う焼畑をユネスコの世界遺産に登録しようという動向について、チェンマイ大学などで文献収集をし、タイ北部のカレン村落で聞き取り調査を行った。これらを踏まえて3月の日本タイ学会の発表では、タイ国においてバプテスト宣教がカレンの社会・経済実践に及ぼした影響を考察した。 更に近年のカレンの森林利用や環境保護運動の中での民族表象について、実際に運動や言説が一般のカレンの人々に与えてきた影響を考察している須永氏の単著『エコツーリズムの民族誌―北タイ山地民カレンの生活世界』を書評し、アジア・アフリカ地域研究に投稿した。また、Dynamics of Karen Rice Farming in Northern Thailand : Rethinking relationship between self-sufficiency in subsistence activities and involvement in market economy.と題した英文論考を書きあげた。これは、東南アジアにおける焼畑の変容を多様な分野の著者が論じる本A Growing Forest of Voices : Integrating Indigenous Knowledge into Sustainable Upland Farmingの1章として近々出版予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初から受入研究者が主催するゼミでの発表や個人指導を受けることを通して、課題研究のタイ研究や人類学研究における位置づけについて、また具体的な調査方法や考察の枠組みについて議論しながら、適宜内容に軌道修正を加えてきた。年度後半には、タイへ渡航し、課題に基づいた文献収集とフィールド調査も行っている。これらを元にして、2回の学会発表を行い、書評、英語論文を執筆し、成果を上げている。また、学内外の研究会にも積極的に参加し、外部の研究者とも交流を深めるとともに、東南アジア学会関西例会の委員としても活動している。以上、13年度、研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画は以下のようになっている。 4月-8月:1年目の研究成果を、5月から7月上旬にかけて開催される日本タイ学会、東南アジア学会などで発表し、国内の研究者との意見交換を通じて議論を深める。あわせて研究成果を『文化人類学』か『東南アジア研究』に投稿する。 9月-3月:タイ国へ渡航し、1年目よりローカルな地域に密着したフィールド調査を行い、タイにおける農世界称賛の潮流が、地域レベルではカレン住民の生活にどう影響を与え、住民がどう生活を再編しているのか、について参与観察と聞き取り調査をする。これまでも調査を続けてきたチェンマイ県のボケウ行政区を中心に、対照的な暮らしを営む2つのカレン村落で、換金作物栽培や国立公園問題、有機農業への取り組み、都市へ出た若年層の村への還流と生活の変化等が農世界称賛の潮流とどう絡み合いながら、住民の実生活を再編しているのかに焦点を当て比較する。
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