研究課題/領域番号 |
12J04542
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田崎 郁子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | バプテスト宣教 / 東南アジア大陸部山地 / 農的世界賛美の流 / タイ / カレン / 宗教的チャリティ / 労働規範 / 少数民族 |
研究概要 |
本研究の目的は、山地民と呼ばれてきた少数民族カレンの生活変容を、タイ社会において農的世界が賛美されるようになってきた歴史的・社会的過程から、明らかにすることである。25年度は、特にタイ国のカレンに対するキリスト教宣教活動が与えた影響について考察し、以下に述べるように研究成果を発表するとともに新たなフィールド調査を実施した。年度前半は、東南アジア学会及び関西例会での発表を中心に、タイ国におけるバプテスト宣教がカレンの社会・経済実践に及ぼした影響を考察した。特に「マチュ」というカレン語に着目し、急激な社会変容を受け生じた世代問や世帯間の立場・社会経済状況の差異に対応する形でマチュという言葉を用いることが、「施し・奉仕」のやりとりから生じる権力関係や返礼の義務を無効化していることを指摘した。従来の先行研究では東南アジアにおける宗教的チャリティが利己的か利他的かという西洋中心の二項対立の枠組みで捉えられてきたことに対して、そうではないアジア的な宗教的チャリティの捉え方について明らかにする論文を執筆中である。年度後半は、タイでフィールド調査を実施し、バプテスト教会が農業開発プロジェクトや言説を通して新たな労働概念をいかに形成してきたのかに着目した。そしてバプテスト教会傘下の村では、一般的にタイ国で流布している「森を守るカレン」像とは正反対の、神の定めたもうた生活の自己目的としての労働と富の追求が見られることを明らかにした。以上より、タイ社会において農的世界が賛美されるようになってきた潮流の歴史的・社会的な潮流の中で、これとは対象的なバプテスト・カレン村に特有な労働の在り方について考察を進めている。 更に翻訳書『ゾミアー脱国家の世界史』(JC. スコット 2009)をみすず書房から出版した。また、東南アジア学会関西例会委員を務め、計7回の研究会を開催し、東南アジア研究者と議論を交わした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は特にバプテスト宣教活動に着目し、それがカレンの宗教的チャリティ実践や労働規範の変容に与えた影響を明らかにした。それによってタイ社会において農的世界が賛美されるようになってきた歴史的・社会的過程の中で、これとは逆行するような形にも見えるカレン社会の事例を考察できた。学会発表、翻訳書出版、論文の執筆、タイでの渡航調査を行うとともに、外部の研究者とも交流を深め、東南アジア学会関西例会の委員としても活動している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画は以下のようになっている。 4月-9月 : 25年度後半の成果(労働規範について)を国際タイ学会@シドニー、日本タイ学会で発表し、研究者との意見交換を通じて議論を深めるとともに、投稿論文を執筆して投稿する。 10月-12月 : タイ国へ渡航し、タイにおける農世界称賛の潮流と地域レベルでのカレン住民の生活への影響について参与観察と聞き取り調査をする。 1月-3月 : これまでの研究成果をとりまとめ、単著として出版する準備を進める。
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