研究概要 |
センニョムシクイ属はテリカッコウ属の雛を排除する行動が知られているが(Sato et al. 2010 Biology Letters),この行動はこれまで進化しないと考えられてきた.センニョムシクイ属を調査する事で「托卵をめぐる共進化」のメカニズム解明が期待できる. 平成24年9月22日よりニューカレドニア南部州立公園にて,野外調査をおこなった.その結果,以下の成果をあげた. 1.ヨコジマテリカッコウのヒナを宿主が巣外に排除する事の撮影に成功. 2.宿主及びヨコジマテリカッコウのDNAサンプル採集. 3.宿主及びヨコジマテリカッコウの基礎生態のデータ収集. これらの成果は200年以上続いている托卵研究の未解決の部分(雛排除行動の謎など)を解明する上で重要である. 「宿主による雛排除行動」は進化しないと理論的に証明されており(Lotem 1993 Nature),本研究と矛盾が生じる.この矛盾を解消するため,数理モデルを用いた研究をおこなった.先行研究では熱帯地域の特徴が雛排除行動の進化に影響を与えている事が示されており(Sato et al. 2010 Ornithological Science),これまでの理論研究(温帯地域を想定したもの)の前提条件を熱帯地域の条件を反映できるように修正し,あらゆる状況を想定した結果,熱帯地域では雛排除が有利な行動となり,進化する可能性がある事を証明した.このモデルは先行研究と矛盾するものでなく,より一般的に宿主の行動の進化を説明したものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ニューカレドニアでの2年目の調査であったが,目的の1つである托卵システムの解明については多くのデータを収集する事ができ,順調に進展している.特にこれまで知られていなかった行動を新たに発見する事ができたため,これらは目的の解明だけではなく,托卵の研究に新しい視点を与える可能性が高い.2つ目の目的である雛擬態の進化要因の解明も,必要な雛のデータが順調に取れている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって,センニョムシクイ属の基礎データが蓄積された.これを今後もおこなう事で,同属の比較が可能となり,雛排除行動を進化させた要因の解明をさらに進める事ができる.特に本研究はこれまで温帯地域を中心に研究が盛んであった,鳥類の行動をより大きな視点で考察する事の重要性を示す研究であるため,成果を発表する事で,今後の生物学のトレンドに影響を与える事も今後の方策の1つである.
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