研究課題/領域番号 |
12J04610
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
行場 絵里奈 東北大学, 災害科学国際研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 防災教育 / 防災意識 / 情報活用 / 認知特性 / 学習意欲要因 / 被災地内と被災地外 / 意識の違い / 認知と意欲の関係 |
研究概要 |
メディアなどから提供される災害情報を的確に捉え、危険認知能力を高めるための適切な避難スキルに、学習した知識を柔軟かつ迅速に変換することを可能にする効果的な防災意識の向上、防災教育教授法のあり方を検討することを目的とし、最初に人間の災害情報に対する意識に焦点を当て、平成23年東北地方太平洋沖地震の被災地内の大学と被災地外の大学の学生を対象に、重要性を感じた情報とメディア活用の違いについて調査した。その結果、東北地方太平洋沖地震発生後1ヶ月間は、発生前に比べるとメディアの活用率が高く、様々な種類のメディアが活用されていたことがわかった。また、被災地域では複数のメディアが同等の割合で使用されていたことから、緊急時に情報源としての多様なメディアが複数活用され、情報が入手されており、被災地域から離れた地域では、メディアの使用分布に関しては大きな変化は見られなかったため、地震発生後も主にテレビやインターネットを活用していたことが判明した。地震発生後1ヶ月間で得た災害情報の中で、最も重要だと情報についても、被災地域では、交通機関の停止に加え、水やガスが停電機関より長くに及んで停止していたため、大学学生は特にこれらの情報に注目しており、メディアの使用に関しても、特にラジオや新聞などの古くから使われてきた伝統的なメディアの使用が増加していた。一方、被災地外の大学学生は、防災対策に役立つ情報に関する回答が多かったため、今回の災害から自身の防災対策に活かすことができる防災対策を、テレビやインターネットをはじめとするメディアから学ぼうとしていたことが推測される。このことより、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、日本国全体に種々の影響を与えたが、同じ国内であるにもかかわらず、被災地域とそうでない地域でメディア使用傾向や注目情報を調査した結果、両者に違いがあることが明らかになった。次に、既存のインターネット防災教材「eカレッジ防災・危機管理」に含まれる51の学習項目に対する理解と印象を、知識(K)レベル、規則(R)レベル、スキル(S)レベルの3つの認知階層で区分されたRasmussenの認知情報処理階層モデルと、Attention(注意)、Relevance(関連性)、Confidence(自信)、Satisfaction(満足)、Volition(意志)の5要因からなるKeller(2008)のARCS-Vの意欲モデルの観点から検証した。その結果、防災教育内容が喚起する意欲要因は、認知特性別の学習項目によって違いがあることが明らかになった。一方、学習項目に対する理解度は3つの認知特性で大きな違いは見られなかった。意欲要因と印象度の相関を調査した結果、規則レベルは自信要因と印象度との相関が有意、さらに自信との相関が有意傾向にあった。規則レベルの学習項目は「実行する必要がある」という意志や「これならできる」という自信に関する意欲が形成されやすいことが考えられる。知識レベルでは印象度も理解度も自信との相関がほかの意欲要因と比較し高めであることから、知識として獲得する学習項目については、自信を喚起する内容ほど正確な学習が行われているのではないかと考察される。スキルレベルの項目では、理解度も印象度も意欲要因との相関係数は低かったことから、技能を学ぼうとする意欲が高くてもそれらが正確な技能につながることは困難であり、別の要因や手法(例えば、繰り返し学習や、習得済みの技能・規則は正しいものかの振り返りや見直し等)によって的確なスキルレベルの学習が促進される可能性が考えられる。今後は教材の映像を提示することや、実技を取り入れたうえで、今回と同様の手法をつかって調査を行うことを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、認知と意欲の観点から防災教育教材に含まれる学習項目を分析・検証することを目的としていた。本成果は、2012 lreland International Conference of Education及び第29回謁知科学会でも題されて発表され、各学会の論文誌に収録されている。さらに、、International Journal for Cross-Disciplinary Subjects Educationより招待論文として投稿の依頼を受け、採録が決まっている。このため、このまま順調に研究を進めれば、さらなる成果が期待できると思える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は調査範囲と対象者を大学内のみに限定せず、小中高校等の基礎教育者をも対象とし、防災意識の変化や的確な知識、行動能力を検証することによって、各教育層で適用可能な効果的な災害教育の在り方を研究することを目的としている。2013年3月7日に改訂された気象庁の津波警報に関して、人間の災害情報の主観的とらえ方、警報を受けたときにとるであろう行動についてアンケート調査することを計画しているが、災害発生時の居場所や、津波災害に関する内容が含まれているため、東北地方太平洋沿岸部の住民及び未成年者は災害の衝撃が思い出され動揺する可能性も考えられる。調査を行う前、災害や災害発生時の居場所に関する内容が含まれていることを十分に説明し、本人の了解を必ず得る。参加を拒否する権利を与え、その被験者にとって不快や精神的苦痛を感じるような内容であれば、いつでも調査を中断できる形式としその旨を対象者にあらかじめ十分に伝えたのち、同意を得る。
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