研究課題
研究代表者のグループは、慢性炎症に従ってActivation-induced cytidine deaminase (AID)が上皮細胞に異所性に発現し、その遺伝子変異導入活性を介して発癌につながることを提唱し、様々な消化器系臓器において数多くの報告を重ねてきた。また、最近Sox9発現細胞が、肝臓・膵臓・腸管の正常幹細胞/前駆細胞の特性を備えていることが明らかになってきた。今回、Sox9発現細胞にAIDを特異的に発現させることにより、消化器系臓器の組織幹細胞へのゲノム異常の蓄積が、癌の発生につながるかを検討することを目的として本研究を開始した。まず、Sox9-CreノックインマウスとAIDコンディショナルトランスジェニックマウス(AIDcTg)を交配させることによりSox9-AIDマウスを作成し、90週齢に到達した時点で解析を行ったところ、肝臓・胃も含めた複数の消化器系臓器に腫瘍が発生していた。また、wild-typeマウスに0.03%TAAを8か月投与したところ、20匹中14匹に肝腫瘍の発生を認めたが、免疫染色も含めた病理組織学的検討にて、腫瘍部では非腫瘍部と比べて、明らかにSox9の発現が増強していることが確認された。さらに、上記Sox9-AIDマウスの中で肺腫瘍を形成する個体が確認されたことから、Sox9陽性細胞が、消化器系臓器を含む、生体内のさまざまな臓器の発癌過程において重要な役割を担っている可能性が示唆された。また、アルブミン(Alb)は肝細胞分化の各段階で発現することが知られているが、Alb-CreERT2 TgマウスとAID cTgマウスの交配、タモキシフェン投与によって、任意の時期にAlb陽性細胞に特異的にAIDを発現させるマウスの作成も進んでおり、その解析も併せて行うことにで、肝発癌の起源に迫ることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
Sox9-AIDマウスに肝臓・胃も含めた複数の消化器系臓器に腫瘍が発生していた。さらに、TAAによる肝発癌モデルにて生じた肝腫瘍組織にてSox9陽性細胞の発現が増強していたという結果と併せて解釈すると、Sox9陽性細胞は消化器系発癌の由来となり得ると考えられた。それだけでなく、Sox9-AIDマウスの肺にも腫瘍をみとめたことから、生体内の各臓器の発癌過程において、Sox9陽性細胞が重要な役割を担っている可能性が示唆された。
今後さらに解析数を増やしていく予定のSox9-AIDマウスと、現在作成中のAlb-AIDマウスの腫瘍形成の表現型と比較することで、肝癌細胞の由来が肝前駆細胞か、成熟肝細胞か、あるいは両方であるかも含めて検討することが可能となるため、今後の重要な研究課題と位置付けている。また、これらのマウスの臓器の組織から抽出したDNAを用いて、次世代ゲノムアナライザーを活用した遺伝子変化の網羅的解析を施行する予定である。
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