本年度は、ダヤク族に関する基本文献の収集とカハリンガンの公認化に関連する文書の分析、ジャカルタの国立図書館での新聞記事や雑誌記事の収集を行った。まず、ダヤク族に関する基礎文献の精読によって、ダヤク族の宗教と文化について理解を深めた。このことは現在行われている儀礼や、教義的事項との比較によって公認化によって生じた変化を検討する際に意義がある。カハリンガンの公認化に関連する文書からは、カハリンガンがヒンドゥーとして統合されるまでの過程を示すことができた。以上の基礎文献と公認化に関する文書の分析から、カハリンガンが宗教であるという認識と、それとエスニシティとの結びつきが、歴史的に形成されてきたものであることが明らかになった。このことは、現在の地位確立運動の起源と展開を理解するうえで重要性を有している。 また、収集した文書から、中・高等学校の宗教教師を育成するヒンドゥー学院(在パランカラヤ)が、カハリンガン・ヒンドゥー教大評議会との密接な関係の中から誕生したことがわかった。インドネシアでは、高等学校まで自身の属す宗教科目を履修することが義務づけられているため、宗教科目の中にカハリンガンを組み込むことは、公認宗教としての地位を示そうとする試みであると捉えられる。この事実に基き、インドネシアの国家と宗教の関係について考察を行った。 新聞記事の分析からは、カハリンガンコミュニティの中でも多様な意見があり、公認化以降も引き続きカハリンガンの地位について議論がなされていることが明らかになった。宗教としてのカハリンガンが、国家や他宗教のみならず、カハリンガンコミュニティ内で働く多様な力学の中で形成されたことがわかった。
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