研究課題
本年度は、ハギア・ソフィアに加えて隣接する同時時代建築のアヤ・イリニ聖堂での調査を実施した。調査では、①現地調査とサンプルの分析、②金テッセラの材料・技法考察をおこなった。特に、新規調査対象としたアヤ・イリニでは、ハギア・ソフィアのモザイクと比べ保存状態の悪いモザイクを対象とするため、現地研究者と協力して、早急な保存対策と修復処置も念頭に置いた調査計画でのぞんだ。アヤ・イリニのモザイクの現状記録と今後の調査方針の確認をおこない、次年度から本格的にモザイクの調査を実施することが決まった。また、管理するトプカプ宮殿博物館との打ち合わせにより、堂内外の環境モニタリングを長期的に実施することが決まり、測定機器を堂内外数か所に設置し、本年度の調査の際に約1年間のデータを収集・解析し保存方策検討のために博物館に提示する予定である。現地調査の成果は、6月に日本文化財科学会での口頭発表ならびに保存修復学会でのポスター発表として、公表した。また、11月にはイタリアで開催された国際学会にも参加し、研究進捗状況を公表した。また、かねてより計画していたガーゼ法による海からめ飛来塩分量の測定を実施しだ。この飛来塩分量の測定は、海からの影響を評価するためで、現場での様々な制限下での作業は、日本での予備実験と装置の検討など様々な工夫により可能となった。複数点同時計測をおこない、方位や風向、海面からの高さによる差異を考察することができた。モザイクの調査では、ハギア・ソフィアで初めて地上階の天井モザイクおよび北ティンパヌムの教父モザイクを対象とすることができた。これらモザイクの調査は、長い期間調査されてこなかったため、今回の調査結果をもとに、ハギア・ソフィアモザイクの材料・技法および制作年代についての考察の深化を期待している。
1: 当初の計画以上に進展している
アヤ・イリニ聖堂における新規調査を開始するととができた。アヤ・イリニ聖堂では、1947年のドイツ隊による建築調査以降、学術調査およびその報告がおこなわれていない。通常は非公開の博物館であるが、2010年以降コンサートホールとしての使用が増えたことで、施設としての安全性の確保ととともに堂内環境の保守が急がれる。現地調査の結果、コンサートの開催によって、特にアプシスの温度は他に比べて顕著に上昇していることがわかった。この結果をアヤ・イリニ聖堂を管理するトプカプ宮殿博物館に伝え、今後の保存方策について意見交換できたことは、本研究を現地に還元できたという点で非常に大きな成果であると言える。
引き続きハギア・ソフィアおよびアヤ・イリニにおける現地調査を実施し、特に初年度および2年度目に実施した調査・分析の充実化を図っていく。中でも、壁面からの塩類析出については、壁材あるいは環境要因のいずれかが塩類の種類に大きく関わっていることが推察されるため、より建築全体でみた分布と修復履歴の把握、環境の評価を進めていく必要がある。年度末にはこれらの本研究成果をPD研究の最終報告として博物館側に提出し、学芸員ならびに館長らとの将来的な保存方策の検討における基礎的知見として活用したい。
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保存科学、2014年3月第53号
ページ: 177-194
Proceedings of Built Heritage 2013, Monitoring Conservation Management, Milan - Italy, November 2013
ページ: 1084-1091
Ayasofya Müzesi Yıllığı
巻: No.14