有性生殖を行う生物において、雌雄間でその繁殖スピードの違いから、雌の多回交尾、交尾時間など繁殖に関する多くの事象において、利害が一致しない。結果、雌雄間で繁殖に関する最適戦略が異なり、進化的な性間における対立、性的対立を示す。雌に不利な雄の適応的変化に対し、雌は対抗適応し、雌雄間で拮抗的共進化が起こり雌雄の形質に軍拡競走が繰り広げられていると考えられている。コバネヒョウタンナガカメムシT. hemipterusの雄は交尾の際に再交尾抑制物質を送り込むことで、雌の再交尾を遅延、抑制させている (Himuro and Fujisaki 2008)。それに対し、雌は免疫物質を作るなど何らかの対抗戦術を採ることで、再交尾抑制を巡る雌雄間の対立、軍拡競走が生じていると考えられる。本種は通常、短翅型で移動能力が低く、個体群間で遺伝子交流が少ないので、雄の再交尾抑制戦術を巡る雌雄間の対立(軍拡競走の程度)は隔離された個体群ごとで異なっていると考えられる。そこで、京都個体群と岡山個体群、広島個体群を交尾させ、雌の反応を調べたところ、交尾した雄が同一個体群由来か否かで再交尾抑制物質の効果や寿命において顕著な違いが検出され、岡山個体群の方で京都個体群より軍拡競走の程度が強く、広島個体群が最も軍拡競走の程度が弱い事が明らかになった。また、岡山雄と交尾した京都雌は、著しく寿命が低下することが、前年までの結果で明らかになっているが、その物質が雄のある付属腺由来である事が明らかになった。岡山雄由来のその物質を京都雌に人工的に注射した場合に、コントロールに比べて寿命が短くなる一方で、京都雄に注射しても寿命は短くならなかった事から、その毒性は性特異的である事が明らかになった。また、仙台、筑波、京都、岡山、広島、山口の地域個体群を収集し、系統樹を作成した。これから結果について、とりまとめ現在、論文を作成している。
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