研究概要 |
本研究は,沿岸域における人工衛星を用いた沿岸域における植物プランクトンに含まれるクロロフィルa濃度(Chl-a)と浮遊懸濁物質(SS)の推定手法の開発及びそれらの挙動の把握,環境への影響予測を目的としている.本年度は,課題が多く残されていたSSの推定に着目し,濁度が高濃度化していた地点と低濃度化していた地点における光環境を詳細に把握することで推定可能性について検討した.具体的には濁度が高濃度の場合と低濃度の場合の2地点において海水中の光を吸収する物質ごとの光吸収係数,後方散乱係数,光反射率を測定し,その特性について比較した.その結果,濁度が高濃度の地点では低濃度の地点に比べ,後方散乱係数が波長帯で上昇していた.しかし,沿岸域では河川から流入する有色溶存有機態(CDOM)とデトリタスによって350~550nm付近の光が著しく吸収されるため,結果として光反射率は350~450nmで減少し,450nmより長波長側では増加していたことが分かった.さらに,CDOMと塩分との間に高い相関関係が確認されたことから,衛星画像を用いてCDOMを推定することにより塩分の推定が可能であることが示唆された.これらのことから,SSの推定を行うためには,450nmより長波長側の反射率の上昇を使用することで推定モデルを作成できる可能性があること,またCDOMによる350~450nmの光反射率の減少の特性を利用できれば塩分推定の可能性があることが分かった.これらが可能となれば,降雨後などのイベント時に河川から流入する土砂や有機物の分布の挙動の把握が可能となり,光合成の阻害や有機物分解のための溶存酸素の消費などSSの生態系への影響について議論することが可能となる.また,塩分の推定が可能となれば,塩分の空間分布画像を流動・生態系シミュレーションモデルに組み合わせることで,正確に密度場を再現し,沿岸域の環境モニタリングや予測を行う際に有益になると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り,衛星画像を用いたChl-a,SS,CDOMの推定法の開発を進めること,さらに,データ同化型流動・生態系シミュレーションを用いた環境モニタリング・予測について進める予定である.また,富栄養化した内湾では青潮が頻繁に発生しており,大きな環境問題となっているため,開発した手法及び数値シミュレーションを用いて青潮域の推定・予測などへの適用可能性についても検討予定である.
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