研究概要 |
本研究では, 人工衛星リモートセンシングによる沿岸域におけるクロロフィルa (Chl-a), 浮遊懸濁物質(SS)の推定および, その時空間的変動の解明を目的としている. 本研究の対象領域である東京湾は, 赤潮の発生が重大な環境問題の一つになっている. 赤潮発生時にはChl-aが著しく上昇するため, 従来の人工衛星Chl-a推定モデルを使用すると推定誤差が生じる. そこで, 湾内において正確なChl-a推定が可能な水中アルゴリズムを作成するため, 東京湾内の光環境特性を明らかにした. これまで, 現地観測により衛星が感知する輝度, 海水中の物質ごとの光吸収係数, 後方散乱係数, Chl-aやSSなど多くの実測値を収集することができた. これらの関係を調べた結果, 東京湾は有機態浮遊懸濁物質(OSS)とChl-aに良好な相関関係が見られることから, 有機物が卓越した海域であることが分かった. 加えて, 実測の放射輝度のスペクトル, 植物プランクトン, デトリタスの光吸収係数の結果とChl-aの濃度変化を考察することで, 赤潮時特有のスペクトル変動の要因を明らかにした. 赤潮時にChl-aが著しく増加すると, 植物プランクトンの光吸収帯である440nm付近の青色域と660nmの赤色域の光反射率が著しく低下し, 570nmの緑色域の反射率も徐々に低下することが分かった. 加えて, 赤潮時にはクロロフィル蛍光が活性化していることが多く, さらにデトリタスの増加に伴い680nmの反射率が著しく上昇することが分かった. さらに, 優占植物プランクトンの種によりスペクトルが変化し, Chl-a推定の誤差要因になることも明らかになった. 現在これらの知見から, Chl-a推定モデルを作成しており, 近赤外域のバンドを用いて推定モデルを作成すると, 高濃度から低濃度まで網羅できる沿岸域に適したChl-a推定モデルを開発できる可能性があることが分かった. これが可能になれば, 赤潮のモニタリングのみだけでなく, 赤潮分布の挙動のメカニズムの解明に繋がり, 赤潮の環境問題改善の一歩となる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在, 赤潮分布推定モデル, SS推定モデルの開発は順調に進んでおり, モデルを衛星画像に適用した上での精度検証の段階に進み, 良い成果をあげている. 同時に推定した分布を考察しながら数値シミュレーションによる検証と同化モデルの作成まで進めており, これらを利用して1年以内に東京湾内の複雑な生態系, 流動に関する変動メカニズムが明らかになるものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として, 現在, 東京湾に適した大気補正モデルも作成しており, 大気と海洋を連動させた新たなChl-a推定モデルを開発する予定である. また, 赤潮と青潮発生時の衛星画像を大量に収集し, その分布の挙動を考察する. 加えて, 流動・生態系シミュレーションに対して人工衛星画像の同化, 境界条件の改善を行い, 数値シミュレーションの精度を向上させた上で赤潮・青潮分布の形成過程の把握, それらの大規模化と小規模化する場合などの挙動メカニズムを明らかにする. その後, これらの知見から赤潮・青潮発生の抑制, 解決策の提案を行う予定である.
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