研究課題/領域番号 |
12J04773
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
百合草 真理子 名古屋大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | コレッジョ / 《美徳の寓意》と《悪徳の寓意》 / イザベッラ・デステ / ストゥディオーロ / サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂 / 天井画 / パルマ / カッシーノ会 |
研究概要 |
本研究は、北イタリアで活躍したルネサンス期の画家アントニオ・アレグリ・ダ・コレッジョ(1489-1534)が、マントヴァ侯爵夫人イザベッラ・デステのストゥディオーロのために制作した対作品《美徳の寓意》と《悪徳の寓意》(1530年頃、ルーヴル美術館所蔵)を対象に、主題の内容や設置場所の空間的機能と緊密に関係を結びながら構想されていった作品の生成過程を明かにし、画家晩年の創作活動に位置づけることを目的とするものである。 本年度(~平成25年3月31日)は、構図や人物構成、人物像の姿態や視線、彩色法などの造形言語を、主題や建築的要素、機能に即して編成していくコレッジョの芸術的手法を検証するため、こうした兆候が初めて現れるサン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂の天井画(1520-21、パルマ)を具体的作例として取り上げ、形式と内容の関係を考察した。典拠とされる福音書や聖務日課書のテクスト、また、同主題を描く図像との比較対照からは、コレッジョが聖堂の建築形態を利用しながら、主題のもつ意味内容を精査して、この宗教的空間に適した新たなイメージを作り上げたことが明かとなった。 この研究成果は、以下の3点で重要な意味を持つ。1、先行研究でも議論の的とされてきたローマ芸術との関係について新たな視点を提供できる。本天井画において画家は、ミケランジェロやラファエロの用いていた造形的手法の構造の形式のみならずその本質を捉えて受容し、自己の作品に展開しているといえる。2、天井画で行われた試みはその後の絵画制作においても継承されていくため、建築的要素や現実空間に基づく絵画表現の探求が、《美徳の寓意》と《悪徳の寓意》を含む1520年代以降のコレッジョの制作活動における中心的課題であったと示される。3、天井画の創意の着想源は、ベネディクト修道会の改革派カッシーノ会の信仰に見出すことができ、従来ほとんど着目されたことのない、この修道会の在俗の修道士としてのコレッジョ像を提示できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究成果により、画家の集大成ともいえる対作品《美徳の寓意》と《悪徳の寓意》を考察する上で前提となる、内容と密接に結びついたコレッジョの造形的手法が明確となった。これは、本作品がストゥディオーロに求められた機能を視覚化したものと推測する申請者の仮説を裏付ける一つの重要な根拠となる。今後は、図像の文学的典拠、および作品の設置空間との関係づけから、制作過程に生じた画面構成の変更やモティーフの追加等における、コレッジョの意図を探ることが課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、準備素描から完成作における変更がなぜ為されたか、画家の意図を明かにすることを目的とし、次の3つの観点から考察を行う。1、本作品と同時期のコレッジョの祭壇画《スープ皿の聖母》て1530年頃、パルマ国立美術館)など、画面構成が本作品の素描に類似する何点かの作品との比較を通じ、制作の初期段階での画家の構想を跡付ける。2、注文主イザベッラ・デステの他の部屋の室内装飾や、ストゥディオーロを装飾していた一連の絵画作品との比較から、イザベッラのストゥディオーロの宮廷内における位置づけを明確にする。3、先行研究で本作品の典拠として示唆されたマリオ・エクイコラの著作『愛の本質』(1525年)との照合を試み、コレッジョによる、エクイコラの思想体系の受容と解釈の可能性を検討する。
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