本研究は、1909年から1939年までを主な対象としてイギリス企業の組織・戦略に、所得税等の企業課税がどのような影響を及ぼしたのか探るというものである。研究期間の三年目となる平成26年度では、「イギリス多国籍企業と国際的二重課税問題」を中心に研究を進め、一次史料の収集と、研究報告、論文の投稿を行った。
平成26年度の研究活動から得られたことは、「世界的に第一次世界大戦時期から特に重いものとなった所得税の賦課を軽減するために、イギリス多国籍企業はその戦略や、組織構造を変えた」という研究仮説を確かめられたことであった。まず、1916~1920年にイギリス帝国内で行われた所得税の国際的二重課税防止の調整により、同種の調整が行われなかった帝国外諸国への投資・進出に比して帝国内への投資・進出が容易となったことを明らかにすることが出来た。そして、この成果を、「1920年イギリス財政法による帝国内二重所得課税救済制度の成立と影響」という論文にして形にすることが出来、社会経済史学に投稿した。加えて、各種社史、会社史料を用いることで、少なくないイギリス多国籍企業が国際的二重課税防止に苦しんだ結果、組織構造の変化を選択したことを明らかにすることが出来た。これは、博士論文にて収録することが出来た。この論考は、史料の吟味等をしたうえで英文査読誌に投稿する予定である。また、「20世紀前半のイギリス企業と英米間の二重所得税問題―第一次世界大戦から1945年英米租税条約締結まで」という論文も執筆し、経営史学に投稿した。この論文では、1945年英米租税条約の締結を、なぜイギリス政府が決断したか、イギリス多国籍企業の行動・イギリス産業連盟等の経済団体の行動から明らかにした。また、グラスゴー大学史料館所蔵のJ&P Coats社の経営資料を用いることで同社の節税行動を明らかにし、企業経営に与えた影響を論じた。
|