研究課題/領域番号 |
12J04818
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井上 摩耶 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 内耳 / 聴覚 / 有毛細胞 / 耳石 / 第VIII神経 / マウスナー細胞 / ホールセル記録 / ゼブラフィッシュ |
研究概要 |
脊椎動物において、聴覚と平衡感覚は、どちらも有毛細胞と呼ばれる受容細胞で電気信号に変換され、その情報は第VIII脳神経(内耳神経)を介して中枢(脳)へと伝達される。私は、共通の構造を持ちながら、聴覚と平衡感覚が2つの全く異なる感覚として認識される、機能的に分化した神経回路の形成メカニズムの解明を目指している。 研究には、脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュを用いた。ゼブラフィッシュ仔魚は受精後5日という早い段階で既に聴覚と平衡感覚を獲得している。 これまでに私は、ゼブラフィッシュ仔魚の球形嚢(S)と卵形嚢(U)が、耳石と有毛細胞という共通の構造をもちながら、聴覚刺激と平衡感覚刺激を分離して受容することを明らかにし、その機能分化に耳石の大きさが重要な役割を果たすことを示した(論文投稿中)。 SとUで受容された刺激をそれぞれ中枢へ伝達する後方第VIII神経(pVIII)と前方第VIII神経(aVIII)を、蛍光トレーサー(Dil)のインジェクションにより選択的に標識したところ、両者の投射パターンに顕著な差は見られなかった。聴覚中枢であるマウスナー細胞(後脳に一対存在する網様体脊髄路ニューロン)にも、VIIIpだけでなく、VIIIaからも同様に投射があった。ところが、マウスナー細胞においてin vivoホールセル記録をおこない、単一細胞レベルでSとUそれぞれから中枢への情報伝達特性を比較したところ、Uで受容された刺激は、マウスナー細胞に伝達されるものの、Sに比べ応答が小さく潜時が長いという違いがあった。以上の結果から、発達初期のゼブラフィッシュにおいて、同じような神経回路を形成しながらも、電気生理学的な情報伝達特性の違いによって、異なるモダリティが獲得されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聴覚と平衡感覚に関わる神経回路の形成について、形態学的な解析に加えて、電気生理学的な解析をおこなうことで、各神経回路における情報の受容・伝達特性の違いを見出すことができた。研究成果については、国内学会における口頭発表、国際学会におけるポスター発表をおこなっており、さらに一部は論文にまとめ国際誌に投稿していることから、期待通り順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
第VIII神経の投射パターンについて、DiIのインジェクションによる解析では、聴覚・平衡感覚経路の間に、顕著な違いを見出すことができなかった。今後、さらに詳細な解析をおこなうため、電気穿孔法(エレクトロポレーション)を用い、単一細胞レベルで第VIII神経の標識をおこなう予定である。 これまでの研究により、聴覚・平衡感覚経路の形成において、第VIII神経の形態学的な投射パターンよりも、電気生理学的な情報の伝達特性が重要であることが示唆されたが、これは研究の計画当初には想定していなかった結果である。今後、それぞれの神経回路の情報伝達特性の違いを生み出す要因を特定するため、第VIII神経からの電気生理学的記録(Loose patch記録とホールセル記録)をおこなうことを計画している。
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