研究概要 |
平成24年度は,動的な非因果的周期時変スケーリングをロバスト安定解析(さらには制御器設計)に活用することを目指し,まずはリフティングを用いない従来手法である因果的時不変スケーリングについて,対応する動的セパレータのクラスをFIRセパレータと呼ぶものに限定したアプローチ(FIRスケーリングとよぶ)を考え,それを用いて実際にロバスト安定解析を行うための手順を論じた.次に,その因果的時不変FIRスケーリングをリフティングを介した非因果的周期時変FIRスケーリングに拡張することにより,ロバスト安定解析の保守性が真に低減可能であるかどうかを,系を無限行列で表現する枠組を活用して理論的に考察した.その成果として,ある次数の因果的時不変FIRスケーリングと別の次数の非因果的周期時変FIRスケーリングを保守性の観点から理論的に比較することの可能な2つの定理を示した.そして,非因果的周期時変FIRスケーリングを実際にロバスト安定解析に活用するための手順を,因果的時不変FIRスケーリングに関する議論をベースに整備し,上記の理論的な成果が妥当であることを数値例により確認した.また,上記の解析の立場からの理論的な進展と平行して,静的なクラスに限った(すなわちFIRスケーリングのように周波数依存性を導入していない)非因果的周期時変スケーリングに基づくロバスト性能制御器設計の有効性を,台車型倒立振子を用いた制御実験により検証した.スケーリングを静的に限る場合,因果的時不変スケーリングを用いるのに比べて非因果的周期時変スケーリングを用いることで,(D,G)スケーリングと呼ばれる保守性低減のための手法が制御器設計に導入しやすくなる他,扱う制御器のクラスを周期時変なものへ自然に拡張できるなどいくつか利点がある.本研究ではそれらの利点をロバスト制御の実問題に対して確かに活かせることを,上記実験により確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度に遂行予定であったロバスト安定解析に関する研究課題については,期待通りの成果が得られるとともに,すべて予定通り完了させることができた.また,平成24年度現在同大学修士1年生の片山啓さんの助力もあり,平成25年度に遂行予定であったロバスト制御器設計法の実用性検証実験に関する課題についても,スケジュールを前倒して完了させることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,(静的)非因果的周期時変スケーリングに基づくロバスト制御器設計をさらに有用なものに発展させるため,積分補償を導入することを検討する.また,ロバスト安定解析に関する研究により得られた成果を制御器設計にも活かせるよう,非因果的周期時変FIRスケーリングに基づきロバスト制御器を設計することが可能かどうかも検討する.
|