研究課題/領域番号 |
12J04886
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
黒田 祐我 上智大学, 外国語学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | ヨーロッパ中世史 / スペイン:モロッコ:イタリア / イスラーム史 / 地中海 / フロンティア |
研究概要 |
本研究は、自身の博士論文が対象としていた中世後期のカスティーリャ王国とナスル朝グラナダ王国との異教徒間関係の交渉史を土台として、更に大きな枠組み、すなわち西地中海海域史という研究領域を設定することを目指した。これまで二者択一的に把握されがちであった「戦争と平和」の実態の分析を目的とし、具体的に以下の二点に分けて遂行された。 1異宗教間における王国同士の諸関係の分析 カスティーリャ王国とナスル朝グラナダ王国との間で展開された戦争と平和の具体的な諸相を分析した。これは上記の両王国に限らず、イタリア諸都市、マグリブ・イフリーキャ、そしてアラゴン連合王国をも巻き込む西地中海海域全体の中で意義付けされねばならない。各々の勢力は、この国際的な枠組で戦争を行ない、また休戦協定という形で平和を構築することでヒト・モノ・情報が行き交っていたことが明らかとなった。異宗教間で展開されるこのような「外交」に関し、その担い手、枠組み、交渉の経緯、結果などを今後さらに分析していくにあたっての予備的な考察を実施することができた。 2異宗教間に横たわる「辺境」における社会の分析 同じく上記の宗教をまたいだ西地中海海域圏の諸勢力の問に横たわる国境地帯すなわち「境域」における日常的な交流の一端を解明した。「境域」住民らは、必ずしも両王国の「中心」で宣言された戦争に、そして休戦協定に従順であったわけではない。彼らは自らの政治・社会経済的関心に則り、また境の向こうとの日常的接触の経験から独自の動きを見せていたことが明らかとなった。今後は、分析の時代と地域をさらに広げていくと同時に、「境域」社会をめぐる共通の特質を明らかにしていく必要があろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刊行史料や最新の現地における研究動向を入手することができ、西地中海海域史という新たな研究領域を模索することが出来た点は、当初の計画以上の成果といえる。しかし、自身の博士論文の執筆と完成に時間を割かれ、研究成果の公表という点で遅れが生じた点も否定できない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、入手した史料と研究文献を用いて、上記の西地中海海域史の枠組みの中で、諸勢力間、諸境域間で展開される戦争と平和の実像を提示していくことになる。個別論文を公表していくと同時に、フロンティア史あるいは広域海域史の枠組みを定着させる必要があると考えており、このための研究動向に関する論文の執筆を予定している。
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