研究課題
本研究では、交付申請書記載の通り、光を用いた量子通信・量子計算の基盤となる「量子テレポーテーション」という量子情報通信の処理速度を飛躍的に向上させることを目指す。従来の光の量子ビットの量子テレポーテーション装置は、ごく低確率でしか装置が動作せず、それを大規模な量子情報処理へ応用することは非現実的であった。本研究では、独立な2つの技術の融合により、相互の利点を生かした新方式の量子テレポーテーションを考案し、確率100%で動作する装置の開発を目指した。これは、量子テレポーテーションを応用した大規模な光量子ネットワークや、複雑な量子計算プロトコルの実現へ向けた大きな前進となる。今年度は、当初の研究計画を上回るペースで研究が進み、以下の成果を得た。1.アイデア段階にあった新方式の量子テレポーテーション装置を光学テーブル上で組み上げ、動作テストを行った。その結果、成功条件を上回る精度での装置の動作が確認され、装置が確率100%で動作することを実証した。本実験成功の鍵は、当初の装置設計に、ドイツの共同研究者による量子テレポーテーションのゲイン調整のアイデアが組み合わさり、動作精度が想定以上に向上したことであった。本成果はジャーナルに投稿し、現在査読中である。また、平成25年5月の国際学会CLEO/EUROPE-IQEC 2013での口頭発表が確定している。2.上記の実験で用いた量子テレポーテーションのゲイン調整に関して、その物理的解釈と最適化手法を理論解析によって明らかにした。この解析結果と上記の実験結果との整合性が確認でき、本解析手法がゲイン調整下の量子テレポーテーションの物理過程を良く記述できることが示された。加えて、本解析手法をベースに、上記の応用実験を提案・解析し、その成功条件を理論的に導くことにも成功した。本成果は論文執筆段階にあり、ジャーナルに投稿予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は、交付申請書記載の「ハイブリッド型量子テレポーテーション」の実証実験に成功し、申請時の目標を既に実現させた。更に、この実証実験において、ゲイン調整という新しい技術的アイデアが発見・実証され、その理論解析にも成功した。これは、当初予定していた以上の成果を得たと言える。
今後は、現在までに開発した新方式の量子テレポーテーション装置を、量子通信や量子計算へ応用していくための実験へ移行する。具体的には、この量子テレポーテーション装置を用いて、量子的相関を持った2つの光の量子ビットの片方を遠隔地へ伝送することで、空間的に離れた2地点で量子的相関を持った量子ビットを共有する実験を行う。量子的相関の伝送は、長距離量子通信技術や各種量子計算プロトコルにおいて不可欠である。従って本実験は、新方式量子テレポーテーション装置の具体的な量子情報処理への応用へ向けた第一ステップとして重要な意義を持つ。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
arXiv: 1205.4862[quant-ph], PRA accepted
Science
巻: 337 ページ: 1514-1517
Phys. Rev. A
巻: 85 ページ: 053824-1-7
http://www.alice.t.u-tokyo.ac.jp/