研究課題/領域番号 |
12J04932
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高志 緑 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 宋元仏画 / 水陸画 / 水陸会 / 金光明懺法 |
研究概要 |
本研究は、南宋以降の仏画(道釈画)に見られる、さまざまな尊格が一定の方向に移動する様子を表す特徴を備える作例をひとまず水陸系絵画と総称し、その図様及び絵画的特徴を文献資料と併せて比較・分析することによって、その作品が使用された法会の細部、絵画が制作された時代や環境について考察を加えるものである。水陸会とは、南宋時代の中国で発達し現在まで続けられる仏教儀礼で、上堂に仏、菩薩、羅漢や護法天を招請し、下堂に道教など民間信仰の神や六道に属する者を招請して懺悔、施食を行い、下堂以下に法会の功徳を受けさせる、大規模かつ全人的ともいえる法会である。宋元時代に本尊として使用された水陸画は中国本国には現存せず、散逸して別名で伝わっている。そうした作例を水陸画として再発見し、招請される尊格のいずれにあたるのかを検討する研究はすでに行われているが、本研究はさらにそれを発展させるものである。 平成24年度の研究成果として、南宋時代の水陸画のうち古様を示すとされる二つの作品を取り上げ、作品の観察と文献資料の精読から新たな解釈を加え、もと南宋二代皇帝の宰相を務めた史浩が撰述した儀軌が画期となった可能性を指摘した。またその二作品や国内外に所蔵される関連作品の特別閲覧を行い、作品に関する知見を深めた。さらに、水陸会と似通った性格を持ち、同時代同地域で隆盛した金光明懺法に関わる絵画も重視している。水陸会は士大夫官僚が、金光明懺法は皇帝が施主となって行われていたことが文献から知られ、いずれも成立背景に天台僧が関わっている。現存する水陸画には「護法天」として金光明懺法で招請される天部を表すものが存在するので、両法会の関係性が注目される。金光明諸天を表した中国・日本の作品を比較し、儀軌の変遷と併せて天部の構成という視点から検討を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、いわゆる零本状態で現存する宋元時代の水陸画について、一具の全体像や、各々の作品が一具全体の中でどのような位置に当たるのかを相対的に考察することを目的としている。平成24年度には、水陸画関連作品として挙げた作例のうち個人蔵「諸尊降臨図」と知恩院蔵「羅漢集会図」に関して、南宋時代の史浩が水陸会のために設けた十界像に当てはめて考えることが可能であり、史浩が発願した水陸会の実施時期に制作された作品であるという可能性を指摘することができたので、おおむね順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画を立てる段階では、時代と共に水陸画一具の幅数が増えていったと予想したが、文献資料には唐代の水陸画が120帖から成っていた記録が見え(『益州名画録』)、北宋の蘇軾や楊鍔は16幅を用いたとあり(『施食通覧』)、南宋の史浩は十界像を設け、南宋末の志磐は26軸を掛けたという(いずれも『仏祖統紀』)。元代以降の現存作例は大規模な作例ばかりであるが、以上から、水陸会には100幅超の水陸画を用いるものと20幅前後の水陸画を用いるものの二系統が存在するのかとも予想される。現在は後者の南宋の作例について研究を進めているが、今後、系統の違いなどにより前者の水陸画について研究が進めがたい場合、南宋時代の金光明懺法の諸天像に関する研究の比重を増やす可能性が考えられる。
|