研究概要 |
反競争的行為が安全性確保や環境保護などによって正当化される場合について、司法・立法・行政及び経済学の観点から、体系的かつ総合的に検討した。平成24年度は、米国ハーバード大学において長期在外研究を行っており、図書館を利用して資料収集及び分析に努めたほか、法科大学院や経済学部の講義などを聴講した。この成果は、ハーバード大学においてTakeshi Yanagi, Justification for Anti-Competitive Activity : Comparative Analysis, Harvard University USJP Panel Presentationとして英語で口頭報告を行った。そして、ディスカッションを踏まえて、英語の論文であるTakeshi Yanagi, Justification for Anti-Competitive Activity : Comparative Analysis, Harvard University USJP Occasional Paperを公刊する予定でいる(掲載確定)。 まず、米国反トラスト法では、立法であるシャーマン法1条は正当化事由について定めていないが、司法(連邦最高裁判所)は、Professional Engineers事件やTrial Lavyers事件以来、基本的に非経済的正当化事由を排斥する立場を採ってきた。また、行政である連邦取引委員会及び司法省の公表したガイドラインにおいても、競争促進的効果を重視した記述が見受けられる。 次に、EU競争法では、欧州連合の機能に関する条約101条3項に具体的な定めはないが、司法(欧州裁判所)は、伝統的にはMetropole Television事件をはじめとして「公共の利益」による正当化を是認してきた。しかし、EUの行政である欧州委員会は、近年、経済的アプローチと呼ばれる立場を採るに至り、CECED事件においては二酸化炭素の排出削減が経済的な効果として分析されている。ガイドラインにおいても、競争法の論理が強調されている。 最後に、我が国独占禁止法では、立法である2条6項が「公共の利益」という文言を用いるなど、非経済的正当化事由に親和的といえる。我が国の司法である最高裁判所は石油価格カルテル事件において非経済的正当化事由を許容する途を開き、下級審は下関福祉バス事件において考慮される価値が広範にわたることを示した。そして、行政である公正取引委員会の発表したガイドラインにおいても、非経済的正当化事由の許容を示唆している。
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