研究課題
がん組織は、がん細胞だけでなく、間質細胞、免疫細胞、血管、細胞外基質などにより構成され、特徴的な微小環境を形成する。近年の研究から、腫瘍内のがん細胞の悪性化には、がん細胞をとりまく環境由来の要因が強く関わっている事が報告されており、がん微小環境の動的な変化を理解することができれば新たな治療戦略の確立につながる。そこで、腫瘍モデルマウスにおける腫瘍成長過程において、低酸素環境や炎症環境によって活性化される生体分子シグナルを非侵襲的にリアルタイムモニタリングするために、複数の発光イメージングレポーター遺伝子を導入した癌細胞の樹立をおこなった。高い転移能を有するヒト前立腺がん細胞、ヒト乳がん細胞、マウス骨肉腫細胞などに、低酸素、炎症性サイトカインなどの癌悪性化因子に応答するルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定導入した。導入したレポーター遺伝子は、プロモーターやベクター骨格を独自に最適化したものを用いた。それぞれの悪性化因子に応答するレポーターには、基質の異なるルシフェラーゼを用いる事で、同時に複数のシグナル活性をモニタリングできることを確認した。また、低酸素と炎症性サイトカインの供刺激下の細胞におけるレポーター応答性を測定することで、低酸素応答シグナルと炎症シグナルとの間には、細胞種特有のシグナルクロストークが存在していることが明らかになった。さらに、樹立した細胞株をヌードマウスに皮下移植し、腫瘍成長過程における低酸素シグナルと炎症シグナルの推移をモニタリングした。その結果、腫瘍成長過程において、両シグナルが特徴的に活性化・不活性化されることを確認した。この結果は腫瘍内微小環境の特性が腫瘍成長過程において動的に変化していることを示唆する重要な結果であり、新たながん治療戦略の確立に向けて有用な知見となることが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
初年度に計画していた、レポーター遺伝子を導入したがん細胞株の樹立は予定通り完了した。また、in vivoにおける細胞の評価と供に、in vivoにおけるレポーター遺伝子の評価についても、順調に進行している。
当初の予定通り、樹立したがん細胞株をマウスに移植し、生体光イメージングによって、特異的な微小環境の変化点(クリティカルポイント)の探索を進める。腫瘍マウスモデルを用いたin vivoイメージングの実験は、時間と労力を要するため、積極的な情報収集をおこない、実験の効率化をはかる必要がある。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (11件) 図書 (1件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: (in press)
10.1016/j.bbrc.2013.02.044
J Pharmacol Tech Drug Res
巻: 2:3 ページ: 1-7
10.7243/2050-120X-2-2
PLoS ONE
巻: 7 ページ: e48051
10.1371/journal.pone.0048051
Med Chem Commun
巻: 3 ページ: 1451-1461
0.1039/c2md20134h
Blood
巻: 119 ページ: 5405-5416
10.1182/blood-2011-11-390849
血管医学
巻: 12 ページ: 31-38