研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子構造や電子状態に着目して遷移金属錯体を含む物質の性質や、金属酵素が関係する生化学反応機構を、量子化学・計算化学の理論を基にした手法を用いて解明することである。金属酵素は多くの生化学反応に関与しており、その反応機構を解明することは、その生物を理解するのにとても重要と考えられる。 金属酵素のような大きな系に対して量子化学計算を行う場合、計大きくなるにつれて急激に増加する計算コストが問題になる。そこで、フラグメント分子軌道法と、密度汎関数強束縛法とを組み合わせることで、計算の精度を犠牲にせずに大規模系に適用できる手法の開発した。GAMESSと呼ばれるフリーの量子化学計算ソフトウェアに密度汎関数強束縛法を組み込むことにより、効率よくフラグメント分子軌道法を用いた計算ができるようにしている。本研究で開発した手法は、通常の密度汎関数強束縛法よりも10,000倍程度高速であることも分かった。最終的には100万原子のフラーレンクラスターの構造最適化に成功しており、大規模計へ適用できる強力な手法であると言える。本研究により開発した手法は、現時点で最新のGAMESSにて利用することができる。 さらに、反応経路探索に重要と言える、エネルギーの二次微分の開発も行った。本研究では分子軌道の電子占有数が小数になっている場合にも解析的二次微分を行える理論を提案・実装をした。その上で、グラフェンナノリボンに対して、赤外分光スペクトルやラマンスペクトルの系の大きさに対する依存性を検討・議論を可能にした。
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