研究概要 |
生殖免疫学的に解析を行い、生殖戦略の解明、不妊治療への一助を目指していたが、研究を進めるにつれ、栄養膜侵入制御機構の重要性を見出した。胎盤と腫瘍は似て非なるものであり、その違いは厳密に制御された増殖、侵入機構にある。その制御において重要な役割を果たすものの候補として、p53に注目した。p53は様々な機能を有するが、その中でも我々は特にオートファジーに及ぼす影響についての解明を行っている。オートファジーは腫瘍に対して重要な要素であることに加えて、細胞の恒常性を保つという役割があるからである。胎盤は短期間のうちに増殖、分化する。そういった器官の中で、恒常性の維持というのは極めて重要である。また、細胞が過剰に増殖した時にオートファジーが働き、異常増殖を阻止するという役目も考えられる。従って我々はp53が胎盤の栄養膜侵入制御機構においてどのような役割を持つのかを、特にオートファジーに着目して実験を行った。 妊娠適齢期のICRマウスを交配させ、プラグ確認日をD1とした時のD12,14,16,19の各日齢において胎盤を採材した。一部をパラフィン包埋後4umの切片を作成し抗p53、MAP1LC3抗体を用いて免疫組織化学染色、TUNEL染色を、また、一部より蛋白、mRNAを抽出しp53、MAP1LC3のwestern blotting、p53、オートファジーに関連したreal time RT-PCRを行った。 免疫組織化学染色の結果より、マウス胎盤においてp53が栄養膜巨細胞、栄養膜合胞体の細胞質内、脱落膜細胞の核内に発現していること、それに対し、MAPILC3では主に脱落膜細胞の核内に発現し、栄養膜細胞では発現が見られないことを明らかにした。このことから、栄養膜細胞でのp53はオートファジーの抑制に、脱落膜細胞でのp53はオートファジーの促進に働いていることが示唆される。western blotting、real time RT-PCRにより明らかとなった各因子の妊娠時期による変動も、この結果を支持している。
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