研究課題/領域番号 |
12J05072
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村田 光司 名古屋大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ビザンツ / 史料論 / 古文書学 / 西洋史 / 文書形式学 / 皇帝文書 / 国制史 / 文書 |
研究概要 |
本年度はまず史料の蒐集、読解に務めた。まず六月にトルコ共和国イスタンブールにあるトプカプ宮殿博物館附属文書館を訪れ、ビザンツ帝国からオスマン帝国側に送られた外交文書のうち現存するものについて調査を行った。文書館は残念ながら閉鎖しており、再開時期は不明とのことであったが、文書館司書Esra MUyesseroglu氏の取り計らいで関連史料の調査を行うことができた。この調査と刊行史料にもとづいて後期ビザンツ文書史料に関するデータ整理を進めた。またギリシア語叙述史料中に現れる文書使用の用例を探る一環として、6世紀の歴史家プロコピオスの作品『秘史』を静岡県立大学講師の橋川裕之氏と共同で翻訳、検討した。その最初の成果は『早稲田大学高等研究所紀要』第5号(2013年3月)に掲載された。 同時に東京大学大学院人文社会系研究科の仲田公輔氏と共同で、ビザンツ皇帝コンスタンティノス7世ポルフィロゲニトゥス『帝国統治論』の翻訳、検討も進めている。一方で修士論文の議論を全面的に再検討したうえで、その最初の部分を「レンボ修道院文書集成の編纂目的について」と題してビザンツ学会第11回大会(早稲田大学、2013年3月)にて発表した。これは後期帝国の多数の皇帝文書を集成した重要史料の性格を明らかにしたもので、収録された文書史料を利用する際に必須の作業である。そしてわれわれの主要な論点の一つである、帝国後期の共同皇帝による皇帝文書行政についての検討も行い、以下の点を明らかにした。すなわち従来の研究では、パレオロゴス朝期における複数の皇帝による帝国の分割支配が強調されていたが、われわれの議論によれば、少なくともその初期においてその定説は否定され、特権下賜権については正帝一人に担保されていたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の主要な目的は史料の蒐集・読解およびデータベース化であったが、これらについては、予定していた史料の海外調査を無事に終了させることができ、またそれらの全般的な内容把握も行うことができた。またこれまでの研究成果についても、再検討の上で議論を固めることができた。ゆえに2012年度の研究は、おおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、蒐集した史料の本格的な検討にはいる。作業の中心は、従来における皇帝文書分類の、形式的・機能的観点から見た再類型化である。これら文書の検討にはビザンツ期ギリシア語の高度な読解能力が必要とされる一方、刊本だけでなくオリジナルを実見することが欠かせない。上記の点を解決するため、2013年度後半からフランスに留学し、研究指導をパリ第4大学のジャン・クロード・シェネ教授に委託していただくことを目指して準備中である。一方で研究成果の発信については、日本にいる今年度前半を中心に、学会発表と論文投稿の両面で積極的にこれを行っていきたい。
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