イネには発生する場所や時期の異なる様々な種類の根が存在している。イネ科植物はひげ根(冠根)が特徴的な根系を形成し、この冠根の形成に関してはオーキシンおよびサイトカイニンといつた植物ホルモンが重要な役割を果たしているということが既に明らかとなっている。本研究課題では胚発生時に形成される幼根に注目し、イネの幼根発生に異常が生じた突然変異体の原因遺伝子の単離および機能解析を通じてイネの根系形成ネットワークの一端を明らかにすることを試みた。 幼根欠損型突然変異体radicleless1 (ral1)は幼根を欠失するとともに生育が進むにつれて冠根数の減少が認められ、野生型に比べて全体的な根系発育が抑えられていた。また地上部にも形態異常が観察され、ral1変異体の葉身は細くて短く、葉身・葉鞘の境界(ラミナジョイント)の開度が大きくなり、草丈も野生型に比べて若干の矮化が認められた。そこでral1変異体とインド型品種Kasalathとの交雑自殖次世代F2を用いた高精度連鎖解析によりRAL1遺伝子の単離を行ったところ、DNA修復などの機能を担っていると考えられているATP-dependent DEAH helicase (regulator of telomere elongation helicase1)をコードする遺伝子にナンセンス変異が生じていることが明らかとなった。また別の幼根欠損型突然変異体ral2においては幼根の欠失以外にも様々な異常が観察され、シュートの形態異常や胚サイズの縮小および胚の発育遅延などが認められた。ral2変異体には2系統のアリルが既に見つかっているが、今年度はさらに3系統のral2アリルとral2変異体と類似した表現型を示し別遺伝子座の変異に起因するral3変異体を見いだした。ral2変異体およびral3変異体はよく似た形態的特徴をもつため、両遺伝子は幼根形成に関して何らかの形で相互作用している可能性が考えられた。これら2つの変異体の原因遺伝子候補領域は高精度連鎖解析により、ral2遺伝子が第5染色体の105cM付近、RAL3遺伝子が第9染色体の30cM付近に座乗することが明らかとなった。
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