研究概要 |
イネには発生する場所や時期の異なる様々な種類の根が存在している。その中でもイネの幼根はシロイヌナズナの幼根とは異なり胚球から内生的に発生するが、具体的にどのような遺伝子が幼根形成に関与しているかという報告はほとんどなされていない。そこでイネの幼根形成に重要な遺伝子を同定するため、胚器官のinitiationが起こっていると考えられる球状胚を部位ごとに切り分けることで得られたマイクロアレイデータを用いて17個の候補遺伝子を抽出した。さらにこの17遺伝子と共発現する5つの転写因子および根で発現することが既に報告されている2つの遺伝子を加え、合計24遺伝子についてその初期胚および冠根形成部位における発現パターンをin situ hybridization により解析した。その結果、これらの遺伝子はそれぞれに特徴的な発現開始時期や発現パターンを示すこと、冠根原基における発現パターンは幼根と同様であるものがほとんどであるがそうでないものも存在することが明らかとなった。またこれらの遺伝子の中には、シロイヌナズナホモログとは異なる発現パターンを示すものも存在することがわかった。特徴的な発現パターンを示す遺伝子に関して幼根欠損型突然変異体crllにおける発現パターンを調べたところ、発現欠失に加えて異所的な発現が認められた。また冠根欠損型突然変異体rall, crl5背景においては変異体間での発現パターンの違いが認められた。CRL1とCRL5はともにオーキシンシグナル伝達経路の下流で機能する転写因子をコードする遺伝子であるが、これまでの研究によりどちらもARFの直接のターゲット因子であり独立に冠根形成を制御していることが明らかとなっている。今回の結果からもこれら2つのCRL遺伝子は、それぞれに異なる遺伝子の発現を制御することで冠根形成を促進していることが示唆された。このように今回抽出した遺伝子は、根の初期発生マーカーとしても利用可能であると考えられる。
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