研究課題/領域番号 |
12J05127
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 早紀子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 天下 / 世間 / 穢 / 天下触穢 / 後朱雀天皇 / 貴族社会 / 摂関期 / 院政期 |
研究概要 |
当該年度は、平安貴族装束についての史料を収集するとともに、研究対家である平安貴族社会についての理解をより深めるため、平安時代の「天下」概念と穢れ思想の一種である「天下触臓」についての検討を行った。 具体的内容は以下の通りである。政治的理念としての「天下」概念は、先行研究において、その指し示す範囲が実効的支配領域、つまり国内なのか、夷独まで含むものなのかが議論されてきた。しかし平安時代の史料に表れる「天下」は、本来的な「国」という意味だけではなく、「京内」や「貴族社会」という意味でも用いられることが判明した。また、「世間」という語も同様の使われ方をすることが分かった。 その「天下」に関わる観念として、「天下触椴」の実態や意義についても検討した。その結果、「天下触穢」は穢れに対する通常の対応ができない状態になった時、全ての人を触穢人として行動を規制し、穢れの更なる展転を防ぐ処置であり、神を穢れから守ることを目的としたものであると分かった。摂関期から院政期にかけて、穢れを忌避する意識が「肥大化」することは先行研究で指摘されてきたが、今回の検討の中でその起点を、凶事の頻発で神の崇りに対する恐れがより強まったと推定される後朱雀天皇朝に設定した。そして、神を決して穢させないための措置である「天下触穢」は、このような穢れ観念の「肥大化」が進む中で発生したと考えた。「天下触穢」と「世間触穢」の「天下」「世間」とは、神に対して責任をもつ範囲のことであり、平安時代の「天下」は、これまで議論されてきた政治的理念としての「天下」概念とは同一に論じられないことを指摘した。 当該年度の研究の意義・重要性は、平安時代の「天下」概念の内容や、「天下触穢」の実態とその発生、穢れ思想の画期としての後朱雀朝など、議論の進んでいなかった問題を提示・解明し、平安貴族社会の一特質を明らかにしたことにある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回は「天下」や「触穢」といった「概念」から平安貴族社会の特質を明らかにしたが、この研究を貴族装束という「秩序」の視点からの研究と結び付け、平安貴族社会へのより深い理解を得ることが次の目標であり、その作業が進行中であるため②とした。
|
今後の研究の推進方策 |
平安前期から甲期にかけての貴族装束の成立、甲期から後期にかけての貴族装束の変化の過程とその意義を明らかにし、これと今までの「里内裏」や「内裏」、「天下」概念と「天下触穢」についての研究を結び付け、平安貴族社会の全体を見通す研究としてまとめる。
|