研究概要 |
1.研究参加児のリクルート:所属研究室及び東京都内の発達支援センター,療育施設から応募を募り,約20名の自閉症児をリクルートした。 2.発達検査と脳機能・視線評価:全般的な発達評価や,語彙評価,自閉症重症度評価を参加児に対して行った。(1)驚き・喜び・中性・怒り・悲しみなどの表情写真を見ている際の視線運動について,自閉症児と定型発達児の比較を行った。これにより,自閉症重症度が高いほど怒り表情を見る時間が短いことを示した。(2)「既知人物:参加児の母親」と「未知人物:参加児以外の母親」の表情動画を見ている際の脳活動・視線運動を計測した。また,アイコンタクトの形成を中心とした感情理解・表現への支援を行うことにより,目領域への視線運動を増加させた。 3.支援指導の開始:(1)社会的文脈と表情との対応関係の成立について,自閉症児と定型発達児の比較を行った。これにより,発達年齢が低いほど社会的文脈から表情を推測することが難しいことを示した。(2)社会的文脈から表情を推測することが困難な自閉症スペクトラム障害児に対して,表情と社会的文脈動画を対提示する指導を行い,生活・発達年齢の低い子どもであっても,社会的文脈からの表情推測が獲得できることを示した。(3)感情オノマトペと表情との対応関係が未成立である自閉症児に対して,2つの感情をペアにして教える指導によって,感情オノマトペを聞いて表情を選べるようになり,更に表情への命名も促進されたことを示した。(4)声のリズムと表情との対応関係が未成立である自閉症スペクトラム障害児に対して,2つの感情をペアにする指導及び声のリズムと表情の対提示により,表情と声のリズムの対応関係が獲得された。(5)顔への注目や,笑顔の表出が少ない自閉症児に対して,自然場面での遊びを通した指導を行ったことにより,顔を見る行動と笑顔の表出が指導前の2倍以上に増加した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書記載の「研究の目的」に対応し,以下3点の理由から,当初の計画以上に進展していると評価した。1.神経・知覚基盤における評価として,MRSを用いた脳活動計測及び,Tobiiを用いた計測を実施した。 自閉症重症度と表情への視線運動との相関関係,及びトレーニングによる可塑性についての研究成果を示した点。 2.就学前~就学期間の参加児を対象として表情と感情の理解についての支援研究を実施し,声のリズムと表情の対応関係の獲得や感情オノマトペと表情との対応関係の獲得について研究成果を示した点。3.コンピュータ教材の開発を計画より早く開始し,教材を用いた感情理解の評価について研究成果を示した点。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として,以下の3点が挙げられる。1.前年に引き続き,脳機能・視線評価を実施し,初年度に実施した評価結果と比較を行う。脳活動計測では,感情的音声と非感情的音声を聞いた時にどのような脳活動の違いがあるかを計測する。また,顔・表情が持つ報酬機能について,視線運動の計測により検討を行う。2.前年度に引き続き支援を実施し,特に,他者の表情を手掛かりに行動を調整する行動や,他者の表情や感情的動作を模倣して感情表現をする行動について,学習過程を明らかにする。3.前年度の支援結果を踏まえ,感情的音声と表情の対応関係や,感情オノマトペと表情との対応関係をコンピュータ上で学習できるよう,コンピュータ支援教材の開発・修正を行っていく。
|