研究概要 |
●Dual Phase型高張力鋼板を対象とした調査:パラメータスタディとして,硬・軟質相からなる複合組織金属をモデリングし,マルチスケール解析により成形性に及ぼす影響因子とその寄与度の予測を行った.また実験として,製造ロットの異なるDP鋼に対して高速圧縮一引張試験を行い,材質のばらつきがBauschinger効果(以下B.E.)のひずみ速度依存性に与える影響があることを明らかにした.これは硬質マルテンサイトの体積率や硬度のわずかな違いにより現れうるもので,さらにスプリングバック量に誤差を与えるものであることが解析上わかった.また,DP鋼を構成すると仮定できるフェライト単相からなるSPCE鋼に対しても同様の実験を行った結果,高ひずみ速度域ではB.E.の予ひずみ量依存性がDP鋼と全く異なっていた.これは,複合組織構造をもつ金属のB.E.の発現メカニズムは,DP鋼を構成する個々のマトリックスの性質と複合組織構造に由来した効果の複合的影響を受けていることを示している.これらの基礎データは変形特性予測に有用である. ●半凝固鋳造Al合金を対象とした調査:Al-Si7-Mg0.3半凝固鋳造合金に対して種々に加工温度と加工(加熱)時間を変えてECAP加工を行った結果,加工温度が低く連続加工時間が短いほど高強度な試料を作製することができた.これは強ひずみ加工時の静的/動的再結晶のバランスに依るものだと推察できた.一方で,As-cast材およびECAPed材に対してナノインデンター試験を行い初晶Alの硬度分布を測定すると,ECAPed材は微小硬度分布のばらつきが大きくAlとSiの複合則では説明できない値に変化している部分がみられた.これはECAP加工によるものと考えられるが,詳細な原因については特定できていないので次年度に取り組む予定である.これらの調査は塑性加工性の良い複合組織金属の材料設計に役立つものと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度は,基礎実験や解析によるパラメータスタディにより,塑性加工性に関する基礎的な変形特性を得て,予加工を加えた試料の特性を調査することができた.これはおおむね研究実施計画の通りであるが,さらによりミクロレベルでの金属組織の比較評価が必要であると感じている.
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今後の研究の推進方策 |
複合組織金属の材質のばらつきの起きる要因に着目し,シミュレーション上のパラメータスタディで得られた結果を実験で示す予定である.また複合組織金属のナノレベルの微小硬度分布を測定するナノインデンテーション試験は,計測点の下層の影響を受けて他相との複合的特性として測定されかねないものであったが,H24年度末に学内に導入された深さ方向の硬さプロファイルを計測できるナノインデンターにより,今後はより詳細に組織の評価ができると考えている.
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