研究課題/領域番号 |
12J05226
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
村上 暁子 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 20世紀思想史 / レヴィナス / ヒューマニズム / 宗教と倫理 / 意味・時間・主体性 / フランス現代思想 / キリスト教とユダヤ教 / 実存主義・人格主義 |
研究概要 |
本研究は、人格の尊重を基盤とするヒューマニズムの伝統を踏まえつつ、「人間的なもの」概念を中核に据えて新たな仕方で人間性復興を試みたレヴィナスの企てを評価することを最終目標とするものである。具体的には、彼の主要著作『全体性と無限』と『存在の彼方へ』のあいだの時期に焦点を絞り、1.1963年の「痕跡」・「彼性」概念導入に伴う人間関係を記述する枠組みの変化を解明する2.主体性が「他者のための/代わりの一者」という「身代わり」として規定される理由を、キリスト教思想との緊張関係のうちに見出す3.戦後の反ヒューマニズム的風潮のうちにレヴィナスの「他なる人間の人間主義」という企てを位置づけ、その発想の妥当性を問い直す、という三つの作業に重点をおいて一貫して研究を行ってきた。この研究計画に従い、本年度は、研究指導委託制度を用いてフランスのパリカトリック学院にて在外研究を行い、当地で稀少資料や最新の文献の入手に努めたほか、国際学会等で各国の研究者と交流を深めるなかで、1.他者の「意味」をめぐるデリダとレヴィナスの思想の比較考察と、「唯一性」概念を基点とした社会性というレヴィナスの発想に関する論稿を発表した2.『存在の彼方へ』に結実する「身代わり」の主体性論がキルケゴールの神人論の影響のもとで構築された可能性を示し、彼の人間主義思想の形成過程およびその狙いを検討した論稿を発表した3.『他なる人間の人間主義』における新たな人間主義へむけてのレヴィナスの課題と方法論についての研究を進めた(次年度発表予定)。現地で収集した資料を生かし、これまで光が当てられてこなかった実存主義思想や人格主義思想、キリスト教思想とレヴィナス思想の接点に関してさらに詳細な検討を行うことで、本研究は、ハイデガー以降の現代思想におけるヒューマニズムの在り方を根本的に問い直すための土台の構築に貢献しうるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初計画していた二つの課題(1.「身代わり」の概念を核とするレヴィナスの人間主義思想の構築過程を分析する2.キリスト教思想とレヴィナス思想の接点を解明する)に関する作業を行ったうえ、次年度に予定していた課題の一つ(戦後の反ヒューマニズムの流れのうちにレヴィナスの人間主義思想を位置づける)に取り組むことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
フランス留学を経て、近隣分野の研究者との交流を深めた結果、これまでの研究においては時代背景や他の思想家との交流への配慮や一般化の視点が足りなかったのではないかと反省したことから、レヴィナス自身の書物の原典解釈を主とする研究姿勢を一部修正し、より幅広い視野から文献収集および原点研究に努めている。具体的には、現在、人格主義思想との比較研究、とりわけ60年代のキリスト教思想家達との交流の重要性に関する調査に注力している(9.研究実績の概要に記載した(3)の発展)。
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