研究課題/領域番号 |
12J05241
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木下 豪太 北海道大学, 大学院・環境科学院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 分子集団遺伝 / 浸透性交雑 / 極束生物相 / 季節性多型 / 毛色多型 / 環境適応 |
研究概要 |
【北海道産哺乳類の集団史の推定】本研究では北海道からユーラシア大陸北部に広く分布するユキウサギとクロテンについて、大陸・サハリン・北海道を含めた分布広域における系統地理学的解析を行った。その結果、ユキウサギでは宗谷海峡が最終氷期以前から重要な系統分化の境界になっている一方で、クロテンではサハリンで北海道と大陸系統の混在が見られ、大陸から新旧の移入の痕跡が残されていると推測された。さらに、両種における近縁種との系統解析を行った。その結果、北海道産ユキウサギからカンコクノウサギへ過去のmtDNAの遺伝子浸透が示唆された。また光周性関連遺伝子Tshbでは北海道集団から種間レベルの遺伝的距離のあるハプロタイプが発見された。一方、クロテンではこれまでニホンテンとの種間交雑は確認されていないが、毛色関連遺伝子Mclrとその近傍遺伝子の解析から、北海道産クロテンに両種の祖先多型と推測されるハプロタイプが学にんされた。これらの結果から、北海道が北方系生物にとって第四紀以来の長期にわたり進化の重要な舞台となっていることが示唆された。 【季節適応に関わる自然選択の検出】古くから哺乳類の季節性の換毛は、日長周期の変化により調節されていることが確認されているが、その分子メカニズムや進化の過程は解明されていない。そこで本研究では、ノウサギ属2種を対象に光周性および毛色関連遺伝子を用いた集団解析を行った。その結果、季節型に二型が見られるニホンノウサギではTajimaの自然選択検定によりTshbに有意な自然選択の影響が示唆され、とくに北部集団で遺伝的多様性が抑えられている傾向が見られた。一方ユキウサギでは、Tshbの解析から種内クレードで集団史に依存しない緯度勾配による遺伝的分化が示唆された。これらの結果は、ノウサギ属内において緯度勾配に応じた自然選択の可能性を示唆するものであり、季節性の適応進化を解明する重要な手掛かりとなると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では哺乳類の季節性毛色多型をテーマにしているが、主な研究材料であるユキウサギとニホンノウサギに加え、新たに季節多型の見られるクロテンとニホンテンを材料の収集に成功し、異なる系統群間での環境適応の違いを比較検討することが可能になった。また、ノウサギ属・テン属における詳細な集団史の推定を進めることができたため、環境適応に関わる特定の遺伝子群の進化動態について検証する土台を構築することができた。さらに、季節適応に関わっていると推測される光周性関連遺伝子の集団分化と自然選択の影響を検出することができたため、今後、当遺伝子およびその関連遺伝子群おける解析の足がかりとなった。
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今後の研究の推進方策 |
季節性毛色変化に関わると推測される遺伝子(TshbやMclrなど)において解析範囲を広げ、全長およびその近傍領域の遺伝子を集団レベルで解析する。ゲノム上における遺伝的多様度の推移やハプロタイプ構造を明らかにすることで季節適応に応じた自然選択の影響の解明に取り組む。また、季節性の毛色多型に注目した近縁種との比較も行うことで、種間交雑や遺伝子浸透と高緯度適応に伴った種の進化の関連性を明らかにするとともに、ノウサギ属とテン属といった異なる系統軍艦の比較も行うことで、哺乳類全体おける季節適応の進化のパターンを考察する。
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