研究概要 |
脳磁場や心磁場といった生体磁場を強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)によって計測することが出来れば,医療診断や基礎研究に大きく貢献することが出来る.MTJの高感度化には,異方性磁界(H_k)の低い軟磁性層が必要となる.本研究では,スパッタ条件,バッファ層の最適化を行うことで,H_kが約40eとソフトなNiFe膜を得た.また,磁場をセンシングする磁性層であるフリー層にこのNiFe膜を取り入れ,NiFe/Ru/CoFeBの三層構造をフリー層とした構造で,約180%と高い抵抗変化率(トンネル磁気抵抗比:Tunnel Magneto Resistance比:TMR比)と低いH_kを同時に得ることに成功した.MTJをセンサー動作させるためには磁化固定層であるピン層とフリー層の磁化容易軸を直交させる必要がある.本研究では磁場方向と温度を変化させて二度の磁場中熱処理を行うことでこの容易軸の直交を実現し,センサー型の直線的な磁気抵抗曲線を得た.また,フリー層中NiFe膜厚を変化させたところ,NiFeを70nmとした試料で最大25.3%/Oeという非常に高い感度の観測に成功した.これは心磁場などの生体磁場を,一般的な計測器で検出可能な数nVの信号として出力することの出来る値である.さらに,MTJの低ノイズ化のため,直並列に100x100個のMTJを接続した,集積化MTJの試作を行ったところ,周波数に逆比例する1/fノイズを1/30に低減することに成功した.シグナルジェネレーターとワンターンコイルを用いた微小磁場発生器を構築し,集積化MTJによる微小磁場計測を試みたところ,最小で2.9μOeの検出に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
実際の生体磁場を計測するためには,更なるノイズ低減が必要である.これまで行った直並列100x100の集積化では,1/30のノイズ低減効果が確認できたものの,理論的にはノイズは1/10,000になると考えられる.この原因としてMTJの絶縁層界面以外からのノイズが考えれれるため,今後の方策としては絶縁層界面以外のノイズ源を特定し,それを取り除くことでSIN比を向上し,実際の生体磁場計測を行う.
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