研究概要 |
自身の内的な認知活動を客観視しその認知活動自体を情報処理の対象とする内省的な認知能力、いわゆるメタ認知能力はヒト以外の動物にも分有されていることが示唆されてきている。しかし鳥類におけるメタ認知研究はまだ数少なく、また肯定的な結果においてもメタ認知以外の種々の手がかりを利用して行われたという解釈が可能である。メタ認知以外の手がかりとは、たとえば過去の強化履歴や反応時間など、公共的に得られる情報がそれにあたる。これらメタ認知以外の手がかりを利用している可能性は、メタ認知判断を課題遂行前に行わせることによって低くすることができると考えられている。予見的メタ認知はハトにおいて遅延見本合わせ課題を用いて検討され,否定的な結果が得られている。しかしこの課題では多くの作業記憶容量を必要とするためメタ認知を行う余地がなかった可能性がある。そこで本年度の本研究では、ハトが、画面に呈示された3つの画像に正しい順序で反応する系列学習課題において、ヒントが出る場面と出ない場面を課題に進む前にその既知度に応じて適応的に選択するかを検討した。最初の訓練では既知度の異なる系列課題を経験させ、それらはスタートアイコンによって弁別することができた。その後、別の場面においてヒントを要求できるアイコンとそうでないアイコンを経験させた。テストでは、それらを組み合わせた。もしハトが自身の既知度を認知できるとすれば,既知度が高い課題時より既知度が低い課題時に多くヒントを要求するだろうと予想される。テストを行ったところ,4個体中2個体でそのような結果が得られた。本研究は、ハトが予見的なメタ認知を行うことが可能であることを世界に先駆けて示したものであり、比較認知科学における極めて重要な知見である。
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