採用第三年度の研究成果は、(1)単著の刊行、(2)サブナショナル権威主義研究、に大別される。 (1)今年度は、博士論文をベースとした単著『現代ロシアの政治変容と地方:「与党の不在」から圧倒的一党優位へ』(東京大学出版会)を2015年3月に刊行した。拙著では、沿ヴォルガ地域を中心として実施したフィールドワークの成果に基づき、ソ連解体から現在に至るまでのロシア政治の展開について、連邦レヴェルの動向と地方エリートの離合集散の双方を含めた見取り図を提示した。現時点ではロシア研究の文脈に依存する部分が大きいが、今後はこの成果をもとにして比較政治学全体にも貢献できるような理論の構築にも取り組む予定である。今年度はその一部を英語でリライトする作業にも着手した。 (2)研究の新たな方向性を模索するため、単著の刊行準備と並行して「サブナショナル権威主義」の比較研究を進めた。サブナショナル権威主義研究はもともとラテンアメリカを対象として始まったもので、全国的な政治体制は民主化しているのにもかかわらず一部の地方において権威主義が残っているのはなぜか、を問うものである。体制転換を経ていったんは民主化したかに見えたもののその後権威主義化傾向が顕著になったロシアは、サブナショナル権威主義の比較研究を進めるに際して興味深い事例である。そのための第一歩として、今年度は2000年代のロシアにおける市長選挙を題材とし、地方レヴェルにおける選挙運営の実態についての調査を行った。
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