キネシンは、微小管に対してさまざまな力を加えるモータータンパク質であり、細胞分裂期には必須の役割を担う。これまでの構造・機能解析から、14のサブファミリーに分類されている。酵母や動物細胞では、分裂期に働くキネシンの欠損表現型、細胞内局在、分子活性を網羅的に明らかにすることで、細胞分裂装置のメカニクスについて多くの知見が得られている。一方、60を越えるキネシンを有する植物においては網羅的な機能解析は皆無であり、分裂期に働くキネシンについても情報は断片的である。私は、酵母や動物細胞とは見かけが異なる植物の細胞分裂装置の形成機構や動態制御機構を理解するために、ヒメツリガネゴケの全キネシン(78遺伝子)の中から分裂期に働くキネシンを同定することを目指した。相同組換えにより、内在性のキネシン遺伝子のカルボキシル末端に黄色蛍光タンパク質Citrine遺伝子を融合し、分裂期に局在を示すものを共焦点ライブイメージングで探索した。これは、相同組換えによるノックインが容易なヒメツリガネゴケならではのアプローチであり、本来のプロモーター下で発現した内在性のキネシンを可視化することで、局在を正確に捉えることができる。これまでに、動原体、スピンドル微小管、スピンドル極、フラグモプラスト赤道面など、分裂期に局在する43のキネシンを同定した(このうち15以上は新規キネシン)。これは動物培養細胞で同定されていた分裂期キネシン(^~10)よりも多く、また、動物のオーソログとは異なる挙動を示すキネシンも数多く存在した。植物が独自にキネシン遺伝子を増やして分裂装置形成のさまざまな局面に利用していることが示唆された。
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