研究課題/領域番号 |
12J05277
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
下田 健太郎 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 水俣 / 本願の会 / 水俣病 / 記憶 / 表象 / 物質文化 / 文化人類学 / 歴史人類学 |
研究概要 |
本研究の目的は、「水俣病」の想起をめぐる文化的な諸形態の歴史性について多面的に明らかにし、近代の言説とせめぎ合う多声的な歴史構築の実践とその動態を解明することである。そのために、本年度は約11か月間のフィールドワークを実施した。 1.「水俣」の言説的構築と水俣病患者運動史・証言活動の歴史 「水俣」の証言をめぐる文化的・政治的な力と証言活動の変遷について明らかにするために、法制度上における「水俣病」の表象に関する行政資料、水俣病関連の訴訟の記録、雑誌やミニコミ誌等に掲載された患者、支援者、市民、研究者、企業関係者、行政関係者等による文章や語り資料の収集を行った。現在その結果を分析しているところであり、未だ成果を得るには至っていない。 2.水俣市における景観やモノを活用した歴史構築の実践 「本願の会」の活動(定例会や石像の建立など)への参加、ならびに本願の会のメンバーと関係者への聴きとり調査を実施した。本願の会の人々が建立してきた石像および建立者の語りの変遷に注目し、両者の関係性について分析を行った結果、言語によって筋立てることが困難な想いがモノとしての石像に表現されるだけでなく、モノが過去の言語化・客体化に影響を及ぼすという、モノと語りの相互関係が示唆された。現在、この知見をもとに論文を執筆中である。聴きとりと並行しながら、本願の会のメンバー一人ひとりの生業(漁業など)の手伝いを行った。そこから、水俣湾埋立地に据えられた石像の表現と、建立者の自然へのかかわり方や自然に対する信念・信仰との関連性が浮かび上がってきた。この点に関しては調査を継続し、分析を深めていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度行った約11か月間のフィールドワークを滞りなく実施することができ、当初予想していたよりも多くの資料を収集することができた。ただ、調査に多くに時間を費やし、論文や学会発表の成果が少なかった点は反省材料である。現在執筆中の論文含め、2013年度には複数の成果を公表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、既得の資料のデータ化・分析を中心に据えつつ、本年度に行ったフィールドワークの補足的現地調査を実施する。それをもとに、論文や学会発表というかたちで成果を発表していく予定である。現地調査は、引き続き、1.「水俣」の言説的構築と水俣病患者運動史・証言活動の歴史と、2.水俣市における景観やモノを活用した歴史構築の実践という2つの課題を設定して行う。本年度の調査から浮かび上がってきた、水俣湾埋立地に据えられた石像の表現と、建立者の自然へのかかわり方や自然に対する信念・信仰との関連性についても調査を継続し、分析を深めていきたいと考えている。
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