オーロラ帯では磁気圏からのエネルギー流入によってイオン流出が発生し、磁気圏に地球起源イオンを供給している。特に、重い酸素イオンの流出及び磁気圏への供給に関してはこのオーロラ帯からのイオン流出の寄与が大きく、重要視されている。FAST衛星の1998年1月から1999年2月の電磁場、電子、イオン、イオン組成のデータを解析し、流出するイオンの組成、エネルギーインプットと流出イオンフラックスの太陽天頂角依存性について解析を行った。その結果、磁力線のフットプリントの電離圏が日照状態の場合には流出イオンは酸素イオンが支配的な傾向があるが、日陰では水素イオンが支配的な傾向があることが明らかになった。また、大フラックスの酸素イオン流出イベントについては主に日照時に発生していた。降り込み電子(>50 eV)の密度とイオン流出フラックスの関係についても太陽天頂角依存性が見られ、酸素イオンの流出フラックスの理解には以前から指摘されていたエネルギーインプットに加えて、電離圏への日照の効果を考慮する事が重要である事を示した。 このデータセットを用いてイオン組成比(酸素/水素、ヘリウム/水素)の太陽天頂角依存性、エネルギーインプット(ポインティングフラックス、電子降り込み)とイオン流出フラックスの経験モデルを構築した。これらの経験モデルは磁気圏のモデリング研究において地球起源イオンの地球側の境界条件の設定に不可欠である。既存の経験モデルではイオン組成、太陽天頂角の効果が全く考慮されていなかった。過去の研究では特に日陰での酸素イオンの流出量を過大評価していた可能性があることが示された。新たに構築した経験モデルは地球起源イオンのリングカレントへの寄与についてのより定量的な評価に大きく寄与し、磁気嵐の発達過程の理解へも貢献することができると期待される。
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