研究概要 |
申請者は,共生細菌スピロプラズマによるショウジョウバエ「オス殺し」の分子メカニズムを解明するため,平成24年度以下の研究を実施した. 1.免疫染色によるオス胚致死の分子遺伝学的解析 スピロプラズマ感染オス胚では異常な細胞死が起きることが報告されている.そこでまず,抗活性化型Caspase-3抗体及びTUNEL染色により,細胞死のパターンを胚発生の段階を追って観察した.その結果,感染オス胚では異所的な細胞死が孵化後6-7hより見られ始め,12-13h以降に胚致死となるようであった.次に,通常発生で起きる細胞死に必須の遺伝子を欠失したH99欠損系統を観察した結果,感染メス胚ではTUNELシグナルはほぼ完全に失われていたが,感染オス胚では弱いながらもTUNELシグナルが検出された.このことは,スピロプラズマ感染による異常な細胞死には,通常は活性化しない経路が関与している可能性を示唆している.胚発生との関係を調べるため,セグメントポラリティ遺伝子やHox遺伝子の発現パターンを観察したが,顕著な異常は見られなかった.一方,中枢神経系の形成は損なわれており,神経分化への影響が示唆された. 2.非感染・感染オス胚の遺伝子発現解析 スピロプラズマ感染による胚発生への影響を網羅的に調べるため,RNA-Seqによる遺伝子発現解析を行った.感染オス胚で有意に発現変動が見られる遺伝子が43個得られており,今後RNAiによるノックダウンなど詳細な解析を行う予定である. 3.宿主体内スピロプラズマの遺伝子発現解析 オス殺しに関連するスピロプラズマ遺伝子を同定するため,RNA-Seqによる遺伝子発現解析を行った.オス殺し・非オス殺しスピロプラズマ間で有意に発現が変動する遺伝子が多数得られており,今後,サンプル数を増やすとともに候補遺伝子の絞込みを行い,ショウジョウバエでの発現誘導を試みる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は,採用初年度において,スピロプラズマ感染オス胚における異常な細胞死の経時的な変化を記述し,そのシグナル経路を同定するに至っている.また,ショウジョウバエ胚・スピロプラズマ双方について,RNA-seqによる網羅的な解析も進めており,発現変動遺伝子を絞り込むなど,重要なデータを蓄積しつつある.以上の理由より,当初の計画通り順調に進行していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
スピロプラズマ感染オス胚における異常な細胞死の記述と分子遺伝学的解析については,論文発表を目指して必要な実験を完了させる.感染・非感染胚のRNA-seq解析については,強制発現及びRNAi法により個々の候補遺伝子がオス殺しに関係するのかどうかを確認し,オス殺しの分子メカニズム解明を目指す.また,スピロプラズマのRNA-seqについては,まずサンプル数を増やし,現在得られている結果の再現性を確認する必要がある.再現性が確認できれば,ショウジョウバエ個体に強制発現させ,オス殺しとの関連性を追求する.
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