研究概要 |
申請者は, 共生細菌スピロブラズマによるショウジョウバエ「オス殺し」の分子メカニズムを解明するため, 平成25年度以下の研究を実施した. 1. オス胚致死の分子遺伝学的解析 前年度に引き続き, スピロプラズマ感染がオス胚発生にどのような影響を及ぼすのかを調べ, 論文として発表した(Harumoto et al.,2014 ; 研究発表欄参照). 2. スピロプラズマ感染胚の網羅的遺伝子発現解析 スピロプラズマ感染による胚発生への影響を網羅的に調べるため, RNA-seqによる遺伝子発現解析を行い, 感染オス胚特異的に発現上昇がみられる遺伝子群として181の遺伝子を同定した. GO解析の結果, これらの遺伝子は細胞死及びDNA二本鎖切断修復に関与する遺伝子であった. 細胞内で二本鎖切断などのDNA損傷が起きると, 転写因子p53が活性化し損傷の修復やアポトーシスを引き起こす. p53変異体を解析した結果, 変異体オス胚では異常なアポトーシスが顕著に抑えられていることが明らかになった. また, p53活性のレポーター系統を観察したところ, 感染オスでのみレポーター発現が見られた. 以上の結果は, 感染オス胚における異常なアポトーシスがDNA損傷によりp53依存的に引き起こされていることを示しており, RNA-seqの結果を支持するものである. 3. 宿主体内スピロプラズマの遺伝子発現解析 オス殺しに関連するスピロプラズマ遺伝子を同定するため, RNA-seqによる遺伝子発現解析を行った. プレリミナリな実験より, スピロプラズマが豊富に含まれかつ宿主の細胞をほぼ含まない体液サンプルでより多くの発現変動遺伝子が検出されたことから, サンプルとしては宿主体液が適当であると判断した. これまでに, オス殺しを起こす系統だけでなく, 起こさない系統についても合計3反復分のデータ取得が完了しており, 今後まとめて解析する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
感染オス胚の表現型を中心にまとめた研究内容が論文として成果発表されただけでなく, RNA-seqと詳細な遺伝学的解析も並行して行っており, 宿主側表現型の分子メカニズムまで解析が進もうとしている. また, スピロプラズマ側の遺伝子発現解析も順調に進んでおり, 共生細菌側での解析に必要なデータを蓄積しつつある.
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今後の研究の推進方策 |
RNA-seq及び遺伝学より, 感染オス胚特異的にDNA損傷が起きているこが明らかになった. 今年度は, オス胚におけるDNA損傷の詳細を調べることで, なぜオスでのみDNA二本鎖切断が引き起こされるのかを明らかにしたい, また, スピロプラズマ側のRNA-seq解析についても次世代シーケンサーの出力は既に得られており, これから解析予定である. 今後, これらの解析結果を統合して, 「オス殺し」の分子レベルでの理解を目指したい.
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