申請者は平成26年度以下の研究を実施した. 1.オス殺し分子機構の追究 RNA-Seq 解析より,感染オス胚における異常なアポトーシスの原因がオス特異的なDNA 損傷にあることが示された.そこで,DNA 損傷を可視化するために,ヒストン H2Av (哺乳類 H2AX ホモログ)のリン酸化型(phospho-H2Av)を認識する抗体による免疫染色を行ったところ,DNA 損傷はオスの性染色体上に高頻度に誘導されていることが明らかになった.加えて,感染オス胚の分裂期の細胞では,高頻度に染色体架橋が観察されることを見出した.重要な事に,架橋はオス性染色体に高度に特異的であり,架橋部位には絡まった染色体の塊(tangled mass)が観察された.また,本来であれば娘細胞に均等に分配される染色体が非対称に分配されている像が見られたことから,架橋した染色体は分裂に際して両極に引っ張られ断裂すると推測される.細胞分裂が発生途中で停止する stg 変異体を観察したところ,分裂が起きない感染オス胚では異常なアポトーシスは起きないが, DNA 損傷は依然として性染色体上に見られた.このことは,DNA 損傷の誘導 → 架橋形成・断裂 → p53 依存的アポトーシスという一連の流れを示唆する.DNA 損傷の中でも,複製ストレスによる複製異常は架橋形成を引き起こすことから,オス殺しの最初のステップはオス性染色体への複製阻害である可能性が強く示唆される. 2.スピロプラズマの遺伝子発現解析 オス殺しに関連するスピロプラズマ遺伝子を同定するため,RNA-Seq による遺伝子発現解析を行っている.スピロプラズマ系統としてMSROに加えて近縁種由来でオス殺しを起こす NSRO,オスを殺さない NAROA を使用し,合計3反復分のデータ取得が完了している.今後,系統間の発現変動遺伝子解析を進める予定である.
|