研究概要 |
地球上の生命はいつ,どこで,どのように誕生したのか?この人類の根源的な問いに答える上で解くべき課題の一つとして,『生体高分子(タンパク質,DNA,RNA,多糖など)の生成に有利な環境条件の特定』が挙げられる.本研究ではこの候補となる反応場として『鉱物の表面』に注目し,鉱物表面での生体分子(アミノ酸)の重合挙動の実験的解明を目指している. アミノ酸の重合化はその反応式から読み取れるように(nアミノ酸→ペプチド+(n-1)H_2O),脱水反応と共に進行する.ここで水分子は,鉱物表面近傍において密度・融点・張力など様々な点でバルク水とは異なる性質を持つことが知られている.このため熱力学的性質もまたバルク水とは違い,アミノ酸重合の進行度に影響している可能性がある. AIR-IR法は鉱物表面のごく近く(<200mm)にしか存在しない微量な界面水を高感度に検出でき,かつ表面からの距離に依存した水素結合状態の変化を分析できる有用な手法である.水の水素結合状態は,水の物理化学的性質と密接に関係するため,得られた水の吸収帯から熱力学的情報を導ける可能性もある.この導出には,吸収帯の形状と熱力学パラメータとを関連づける指標が必要である. 上記の指標を作成するため,まず無機塩水溶液(NaCl,KClなど)のATR-IR測定を行い,イオンの水のOH伸縮バンドへの影響を調べた.この結果,イオンの水和エントロピーが小さいほど,OH伸縮バンドが低端数側へとシフトするという傾向が見られた。この傾向を利用すれば,ATR-IR法によって鉱物近傍の水のエントロピーを導出できるかもしれない.
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