研究課題/領域番号 |
12J05469
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡田 陽平 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 国際機構 / 国際連合 / 平和維持活動 / 国際責任法 / 行為帰属 / 実効的支配 / 多国籍軍型平和活動 / 安全保障理事会 |
研究概要 |
本研究の目的は、国際機構の活動をめぐって生じうる国際責任の成立要件についての体系的な研究の完成である。平成24年度は、とりわけ、国連平和維持活動(以下、PKO)の文脈における行為帰属(責任成立要件の一つ)の問題について研究を行った。というのも、種々の国際機構の活動の中でも、その過程で他者の法益を侵害し、したがってそれに対して当該機構が責任を負いうるのは、オペレーショナルな活動であって、その代表的かつ実践的に重要な活動がPKOだからである。この点、従来もっぱら国を念頭に置いていた行為帰属論が、国連という国際機構の、そしてPKOという活動の特殊性にどのように対応したのかを明らかにする必要があった。 得られた結論は、従来の行為帰属論の根本的な考え方とは軌を一にしつつも、この問題の特殊性を反映した「実効的支配」基準という特別な規則が現行法として成立しているというものであった。他方で、従来の行為帰属論とは根本的に異なる考え方に基づく基準(「実効的支配」 基準と称されるが前述のものとは内容において異なる)が、学説や国内裁判例において定式化され、支持を広げつつあることも明らかになった。いずれの基準が妥当であるかは、本研究が最終的に明らかにすべき問い、すなわち、国際機構法と国際責任法とはいかなる関係にあるか、に依存する。暫定的な結論としては、一見して両者の要請は対立関係にあるように思われるが、国際責任法の観点から妥当な結論を導き出すためには、国際機構法上の考慮を無視しえないのであって、両者を排他的なものと捉えることには問題があると指摘することができる。 この点についていっそう踏み込んだ検討を行うために、次は国連安保理の許可に基づいて活動する多国籍軍型の平和活動の文脈における行為帰属論の展開について研究を行いたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、平成24年度中に、国連平和活動の文脈における行為帰属につき研究成果を公表する予定であった。しかし、平和活動の中でも、いわゆるPKOと多国籍軍型平和活動とでは、それぞれ力点の置き方を変えて取り組むべき異なる問題が存在していることが明らかになった。もっとも、両者は密接に連関しており、一つの論文でこれらを扱うことにも合理性があったが、論点の拡散防止および紙幅の関係で二つの論文として研究成果を公表することにした。そのため若干の遅れが生じたが、一本目はすでに完成しており、雑誌の刊行を待つのみである。他方、二つの論文に分割したことで、それぞれにおいていっそう踏み込んだ検討を行うことができると考えている。そのため、全体としては順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上で指摘したように、今後取り組むべき課題は、国連平和活動の中でも、多国籍軍型の平和活動であって、その文脈における行為帰属論の展開について研究を行う。この問題に関連する欧州人権裁判所や英国貴族院の新しい裁判例が存在しており、これらの分析が不可欠となる。これら裁判例については、一定数の先行研究が存在しているが、それらは国際機構法と国際責任法との関係についての十分な理解に基づいたものではなく、表面的な批判に終始するものが大半であった。そこで、すでに完成させたPKOの文脈における行為帰属の研究において得られた結果に基づきつつ、多国籍軍型の平和活動の文脈における行為帰属にひそむ本質的な問題を明らかにする。その上で、それらの裁判例の意義を捉え直し、今後の展望について示唆を与えることを目標とする。以上に加えて、国際機構に適用されうる「法人格否認」の法理といった、行為帰属論そのものではないが、密接に関連する法的問題についての研究も行いたいと考えている。
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