生体内で発生したフリーラジカルは、周囲のタンパク質や脂質と速やかに反応し得る。結果としてタンパク質が変性し、あるいは生体膜流動性が低下することで疾患が進展する。しかしながら、従来のフリーラジカル評価法は、一次因子であるラジカル種や最終生成物のアルデヒド体などを指標としており、生体機能の中心を担うタンパク質や脂質ラジカルを選択的に検出する手法は全く存在しない。 そこで、本研究は、タンパク質や脂質など、生体機能を司る分子の酸化障害と周囲の病変部位を画像化するために、蛍光・MRIプローブの開発を行なっている。さらに、ニトロキシドのラジカル捕捉能を活かし、原因ラジカルの同定、及びその周囲での病変解析を行うことを目的としている。 本年度は、主に脂質ラジカルを対象とし、その検出、同定、および画像化を可能とする新規蛍光プローブの開発を行った。そのために、有機スピン化合物であるニトロキシドが、炭素中心ラジカルと付加体を形成する点、および蛍光原子団と相互作用する点に着目し応用した。具体的には、ニトロキシドのラジカル近傍置換基を修飾し、脂質ラジカル親和性を付与した。また、親化合物に蛍光原子団を導入し、脂質ラジカルを高感度に検出可能な蛍光プローブとした。この化合物を用い、試験管レベルで発生した脂質ラジカルを蛍光にて検出し、LC/MSにてその構造を推定できることを明らかにした。さらに、細胞や疾患モデル動物へと応用し、過剰に生成した脂質ラジカルの発生部位を蛍光イメージングにて画像化できる可能性を見出した。つまり、開発した化合物の特徴を応用すれば、脂質ラジカルの分子種、並びに発生する時期や場所を特定でき、疾患の発症・進展に関わる脂質過酸化反応の伝幡やその後の代謝産物を予測することが可能となる。以上より、本研究が、酸化ストレス疾患のメカニズム解明や創薬ターゲット創出の一助になると期待する。
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