研究課題/領域番号 |
12J05479
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小川 拓哉 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | アーキア / メタノフェナジン / プレニル基転移酵素 / プレニル基還元酵素 |
研究概要 |
1)我々はこれまでに、メタノフェナジン(MP)の生合成にゲラニルファルネシル基転移酵素(GFT)が関わると想定し、酵母を宿主とした推定GFT発現系を作製している。次に、精製した組換え酵素を用いて、in vitroでGFT活性を検討した。プレニル基アクセプタの構造が未知だったため、アッセイではフェナジン類縁体や真正細菌型フェナジン生合成前駆体、あるいはキノン様化合物といった種々の化合物を用い、また、プレニル基ドナーとして放射標識したゲラニルファルネシル二リン酸を用いた。いくつかの条件下でアッセイを行ったが転移生成物は得られず、昨年度}ご報告した通り、脱リン酸生成物のみが観察された。 遺伝子破壊が可能とされるメタン生成アーキアMethanosarcina acetivoransを用いて、推定MP生合成遺伝子欠損株の作製にも取り組んだ。現在までに目的の遺伝子欠損株は取得できておらず、MPが呼吸鎖電子キャリアとしてATP産生に寄与していることを考えると、MP生合成遺伝子の欠損が致死性の表現型を示すことが推察された。 2)M. acetivoransから見出した新奇ゲラニルゲラニル基還元酵素(GGR)の特性評価を行った。組換え酵素を用いたin vitroアッセイの結果、同酵素は炭素数20のゲラニルゲラニル基をもつ化合物にのみ還元活性を示し、かつ、その4つの二重結合のうち1つを還元することが明らかになった。さらにその還元位置を決定するため還元生成物をGC-MS解析に供したところ、ω-末端の二重結合が特異的に還元された構造が推定された。同酵素は既知タイプのGGRに相同性をもたない新奇酵素であり、還元部位選択性についても他に例を見ないものである。また、これらの基質特異性および位置選択性から、本酵素がM. acetivorans生体中で部分飽和型の糖キャリア脂質の生合成に関わる可能性が考えられた。そこで、同菌の脂質抽出物をLC-MS分析に供したところ、二重結合が一カ所飽和した糖キャリア脂質が検出された。この結果は、我々が予想した生理的役割を支持している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MP生合成については、想定されるプレニル基転移反応のアクセプタ分子の構造が不分明であり、未だ基質となる化合物を模索している段階にあったため、当初計画したほど進展しなかった。また、推定MP生合成遺伝子の欠損株の作製も、おそらくは致死的な表現型のために困難だと考えられた。一方で、新奇GGRについては還元部位特異性といった酵素学的特性を明らかにすることができ、また生理機能についても知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
MP生合成については、組換え酵素の精製時に使用した界面活性剤の反応への影響を考慮して、推定GFT発現宿主の膜画分を精製酵素の代わりに用いたり、他の化合物を基質としてin vitroアッセイの条件を検討する。また、推定GFT発現宿主において組換え酵素の活性に由来する新奇化合物が生産される可能性を仮定し、そのような化合物の探索・構造解析から未知プレニル基アクセプタを推定できないか検討していきたい。 今回特性評価を行った新奇GGRのホモログ遺伝子はアーキアに広く分布しており、それらにコードされるホモログ酵素が、MPやドリコールをはじめとする未知のイソプレノイド生合成経路に関与する可能性が考えられる。組換え酵素を用いたin vitro解析を通じて、それらのGGRホモログの機能を調べる予定である。
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