研究課題/領域番号 |
12J05540
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田多井 俊喜 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 性同一性障害 / 性別適合手術 / 医療概念 / 人権啓発活動 / 性の医療化 / ガトゥーイ / 性の越境 / 当事者 |
研究概要 |
本年度は、当該研究課題を遂行するために、以下の研究を行った。まずは、日本で「性同一性障害」という医療概念を使って人権啓発運動を行う団体に対してインタビュー調査を行った。次に、「性を変える」という行為がタイ社会でどのように認知されているかについてインタビューを行った。さらに、今後行うアメリカに関する予備的な調査を行った。 日本においては、「性同一性障害」という医療概念を使って人権啓発活動を行う団体のなかでも、先駆的な試みを行う山陰地方の団体に着目した。日本では、「性を変える」にあたり、「性別適合手術」を行い、戸籍上の性別を変えるという手順を踏むことが法的前提になっている。しかし、調査した団体では、手術を受けなくとも「性同一性障害」当事者が社会に参画することを提言していた。提言の中では、厚生労働省と調査した団体とが交渉するという成果を残した。調査からは、「性別適合手術」を前提として「性を変える」ことを認める制度的枠組みが、当事者のニーズを満たしていないという具体的な事例を得ることができた。 タイに関する調査では、タイ社会において「性同一性障害」という言葉は「精神異常者」という「負のイメージ」があるため、「性を変える」人々は「性同一性障害」という言葉を使うことは避けるという。そのため、当事者はガトゥーイという言葉や、「性の越境」というニュアンスのある言葉を駆使して、自らの性のあり方を言い表している。タイの事例からは、日本とタイにおける「性同一性障害」の認知のされ方を比較するための基盤を得た。またアメリカに関する調査では、「性同一性障害」という概念にもとづいた医療制度のあり方について議論があるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「性を変えよう」とする人々が、医療概念である「性同一性障害」に対してどのような意味づけをし、この医療概念を人権啓発運動や日常生活の場でいかにして使うのかについて焦点をあてるものである。調査では、諸外国の事例を参照しながら、日本における「性同一性障害」当事者の最新の動向を把握することができている。特に、日本における調査では、実験的な人権啓発活動を行う団体の動向を調査しているという面で、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の調査では、「性同一性障害」という医療概念にもとづいて人権啓発活動が行われている背景に、「性同一性障害」当事者の抱える深刻な雇用不安があるという事実に特に焦点を当てる。「性同一性障害」とされた人々は、自らの求める性別で労働市場に参画することが難しく、人権啓発活動も雇用不安を解決することが最終的な目的になる。そのため、雇用不安をできる限り解消しようとする団体の動向や、人権啓発活動に加わらない当事者が日常生活をいかにして送っているのかについて留意し、調査を行う。また、調査の進展に伴い、研究成果を公表する水準にまで資料が集まったため、今後は学会・論文投稿の機会を増やしていく方針である。
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