本年度の研究成果を以下に列記する。 ・免疫組織学的手法を用い、GLP-1の味蕾における発現、また各種味細胞マーカーとの共発現の割合を調べた結果、GLP-1は甘味受容体を形成する分子であるTIR3発現味細胞に多く局在していることがわかった。 ・野生型マウス、GLP-1レセプターKOマウスの舌前方部味蕾を支配する鼓索神経、および舌後方部の味覚を支配する舌咽神経の甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の各種味物質に対する応答を記録. 比較した。その結果、甘味に対する応答がKOマウスでは減弱していることが明らかとなった。このGLP-1レセプターKOマウスは、10秒間の各種味溶液に対するリック数を計ることでそれらの味質に対する嗜好性を評価する行動応答実験においても、甘味に限定された応答の減少を示すことがわかった。 ・当研究室のみが有する、単一味細胞からの味応答記録が可能なsingle cell patch clamp法を用い、甘味刺激に応答した甘味感受性細胞から分泌されたGLP-1をpatch記録電極内に回収し、その濃度を測定した。この甘味に応じて分泌されるGLP-1の濃度は、苦味物質で刺激した時に興奮が見られる苦味感受性細胞から回収した電極内溶液GLP-1濃度よりも有意に高値を示した。さらに、loose patch clamp法を応用した手法を用い、味蕾全体から放出されるホルモンの量や、刺激の種類また刺激強度との対応を解析する実験も併せて行った。その結果、味蕾からのGLP-1分泌は甘味刺激特異的であり、なおかつ甘味強度依存的にその分泌量が増加することがわかった。 ・GLP-1を直接マウス血中に投与すると、鼓索神経中の甘味特異的に情報を伝える単一神経線維が一過性にその活動性を上昇させることがわかった。一方、他の味刺激に応答する神経線維ではこのGLP-1による活動性の上昇はほとんど確認できなかった。 以上の結果は、GLP-1が特定の甘味感受性細胞より分泌され、甘味特異的な神経繊維に対する情報伝達物質として機能している可能性を強く示唆するものと考えられる。
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