研究概要 |
本課題は,日本および日本と類似した問題を有するノルウェー王国を対象として,第一に森林資源利用の地域差を整理し,第二に地方分権化下での林野行政の構造変化と助成・規制施策の変遷を精査して,森林資源の利用と林業助成・規制施策との関係性を比較検討することを目的としている。 採用第1年度目(平成24年度)は,第一に,森林蓄積利用の地域差について行政統計を精査して森林資源利用の変化を整理した。その結果,世界の森林蓄積の利用率(素材生産量/森林蓄積)の変化が判明し,1990~2005年における日本およびノルウェー王国は,先進諸国のなかでも特筆すべきレベルで低迷していることを解明した。 第二に,地方分権化下での林野行政構造および助成・規制施策の変化と課題は,予算配分の地域差,施業規制に関係した課題,行政の権限分配の時系列変化を整理した。その結果,2000年代の我が国の都道府県造林費の支出は,増加する団体と減少する団体の格差が増加しており,二極化の傾向を確認した。都道府県造林費の支出が変化した要因を多変量解析により検討をしたところ,従来の団体の財政状況といった因子のみならず,森林蓄積の利用状況や所有構造といった因子も関係してたことが分かった。 一方,ノルウェー王国では,行政機関等への聞き取り調査および文献収集を実施して整理した。その結果,木材の生産が条件不利で森林蓄積の利用が低迷している中西部地域に補助金を重点配分したことが分かった。また,環境保全の観点から事前伐採届出制など規制を強化した施策の存在,1990年代前半に市町村へ権限委譲したものの,その後自治体間の能力差が問題視され,2000年代後半に県へ権限を一部引き上げたという動向が判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
採用第1年度目において,計画に沿って国内外で調査および資料収集を実施し,得られた結果は国内外の研究集会で発表を行い,その後も遅延ない原稿作成と雑誌投稿を遂行した。その結果,本年度は,筆頭著者として国際誌2誌を含む計3誌に原著論文を掲載した。受理された雑誌のなかでもLand Use Policy誌は,土地利用科学分野において特に高い評価を受けている。よって,採択課題に期待以上の進展があったと認識している。
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今後の研究の推進方策 |
採用最終年度(採用第2年度目)は,当初の研究計画に従い,前年度(第1年度目)に得られた情報をもとに,森林蓄積の利用変化とその変化を規定する要因について,地理情報システム(GIS)を用いて検討する。また,森林蓄積の利用状況を改善するための助成または規制に関係する施策調査については,前年度の調査で不足していた情報を補完的に取得し,得られた成果の文章化を予定している。
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