本研究課題は、選挙制度の導入や国家建設のプロセスにおいて新しい政治的対立が発生することにより、紛争後社会における政治暴力が多発するという仮説を検証することを目的としている。第2年目の本年度においては、1. 各政治勢力が紛争後社会においてどのような判断のもと組織的転換を図るのかという理論的研究、及び2. シエラレオネの事例研究に重点を置いて作業を進めた。また、3. 東ティモールの民主化の諸側面に関わる分析を併せて行った。本年度の研究成果は、2本の論文執筆、1本のコラム執筆、及び2回の学会発表の機会を得て発表した。 1. では、国内紛争が終結したのちに、武力をもって戦っていた各政治勢力が、政治交渉を主導するグループ(主流派)とそれ以外のグループ(非主流派)の間の駆け引きのなか、どのような条件のもとに組織的転換を図るのかを分析した。特になぜ暴力を持ち続ける勢力がいるのかを明らかにするために、政党、一般社会へ戻る、国軍へ登用されるといったそのほかの選択肢との間で検討される効用とコストを考察した。結果、非主流派のみならず主流派が暴力を使う損失が十分に小さい場合のみに暴力が発生することが明らかになった。 2. では、シエラレオネにおける政治暴力は、特に選挙に関わる暴力に集約されていることが第1年目の研究結果で明らかとなったため、第2年目では、どのように同国の選挙暴力が発生するのかを分析した。選挙暴力は、勢力の大きさが拮抗する政党間において発生しやすいという仮説を立て、各政治勢力の大きさが紛争後社会においてどのように認識されるのかを知るため、シエラレオネの事例を用いて分析した。 3. では、地方選挙が、地方行政の分権化に先駆けて行われたのはなぜかという問いを通して、同選挙が中央―地方関係にどのような変化を及ぼすのかを検証した。また、東ティモールの民主化の背景として、1970年代からの東ティモールの独立運動とそれに対する国際社会の対応を分析した。
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