研究概要 |
タイヤの転がり抵抗は,主にゴム・カーボンブラック(CB)からなる複合材料の変形に起因する.なかでも充填剤であるCBの凝集体形状,一次粒子径などの形態は複合材料の変形を制御する重要な因子である.そこで,CBの形態を目的に合わせて任意に制御する技術の確立が急務である。申請者は,経験的アプローチによって制御されているCBの製造プロセスに対し,各製造条件におけるCB形態の制御因子の寄与率を明らかにするための工学的原理に基づいたCB生成のマルチスケール解析を構築している.研究内容は大きく分けて,(i)化学的・物理的モデルの構築および精緻化,(ii)モデル検証のための実験に分けられる.当該年度では,(i)に関しては特に詳細化学反応機構を考慮したCB凝集体の体積球相当径の粒径分布の算出のモデル化を行った.具体的には,詳細化学反応機構には,Appel et al.(2000)の詳細化学反応機構を用い,気相中の化学種の濃度を精度良く算出する手法を確立した.修正セクショナルモデルの導入により,ブラウン運動を考慮したポピュレーションバランス方程式を,計算コストを抑えつつ計算精度を高くすることに成功した.このように(i)に関して当該年度では,化学的・物理的モデルの構築を行い,残すは凝集体形状を考慮可能なCluster-Cluster-Aggregation(CCA)モデルとカップリングすることである.以上より,化学反応から物理凝集すべてを考慮した凝集体形状を予測可能なモデルの構築を目指す.(ii)の実験に関しては,軸方向における化学種の濃度変化,粒子核の個数濃度および凝集体形状を測定可能な実験装置の設計・開発を行った。当該年度では,軸方向に数カ所のサンプリングポートを設け,プラズマ装置から発生する高温ガス(2000K以上)に耐えられる反応器を開発した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,構築したCB凝集体の体積球相当径の粒径分布を算出可能なモデルと凝集体形状を算出可能なモデル(構築済)のカップリングを行う.また,実験においてはサンプリング方法を確立した後,実験データの測定を行う.粒子核生成モデルにおける古典的核生成理論の導入に関しては,(1)物性値の信頼性に欠けること,(2)核生成速度が十分に大きいことから,導入を見送り,現在はピレンの2量体が核であるというモデル(Appel et a;.(2000))を採用している.今後,高温における粒子核の安定性を衝突効率によって考慮したモデルの導入を検討している.
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