研究課題/領域番号 |
12J05678
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
関本 真乃 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 苔の衣 / 栄花物語 / 中世王朝物語 / 中世文学 / 歴史物語 / 後嵯峨院 / 歴史物語摂取 / 系図 |
研究概要 |
本年度は『苔の衣』について精読し、研究を進めた。『苔の衣』については、年代記的記述など形式面における『栄花物語』の影響は指摘されてきたが、内容に関する影響はこれまで検討されて来ず、先行物語の摂取の著しさばかりが指摘される状況であった。平成24年度京都大学国文学会(12月1日、於京都大学)における口頭発表「『苔の衣』と歴史物語」では、『苔の衣』の苔衣大将の系譜が、道長の息という共通項に基づき、源明子の子顕信と、源倫子の息子という複数人の系譜を集約して下敷きにしていることを明らかにし、またそれのみならず、苔衣大将を中心として、物語の前史から平安時代の史実の系譜を下敷きにしていることを指摘した。さらに、『苔の衣』において、内親王降嫁問題が持ち上がり、女君への愛情から苦悩するが結局破談となる点、夢に亡き女君が現れ歌を詠む点、関白の息子が出家して聖の衣を着る点は、それぞれ『栄花物語』の頼通・教通・顕信の逸話を取り込んで利用していると考えられることを明らかにした。そして、史実及び歴史物語の摂取は、多分に場当たり的な物語摂取とは同列に扱うべきものではなく、『苔の衣』の主題を考える上でより重要視されるべきだという結論を得た。これを発展させたのが、論文「『苔の衣』の大将の主人公性」である。系図から見ても、『栄花物語』の利用から見ても、出家にいたる苔衣大将の人物造型は、顕信・教通・頼通という道長の息子三人を意図的に集約して造型されていることを踏まえ、『苔の衣』は、最高の栄華栄達が半ば約束された摂関家の嫡男にして一人息子が、それを擲って出家遁世するという、史実はおろか物語においてさえも他に例を見ないような衝撃的な出来事、クライマックスを描くにあたり、苔衣大将を、史実の系譜や『栄花物語』を利用し造型しているのであり、『苔の衣』大将は、物語全編を貫く主人公性を有していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
『苔の衣』が、史実の系譜を物語の枠組において、全面的に下敷きにしていることを明らかに出来たことにより、これまでとは違う視点で『苔の衣』の主題を考察できるようになったため、計画以上に新たな発見があった。 また歴史物語の摂取が独り『苔の衣』のみならず、後嵯峨院時代の物語制作への影響という観点から広く検討してゆくべき課題であるという方針を見出せたことも大きい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、計画を変更し引き続き『苔の衣』について研究を進める予定である。史実の系譜との対応や『栄花物語』の摂取は、さらに随所で見られるようであるので、その特徴を検討し、またこれまで誤って読まれてきたと考えられる巻四の双子の姫君の系譜について、その誤りを明らかにし、引いては物語制作文化圏についても検討したい。一見蛇足に思われる巻四の意義についても詳しく再検討し、「苔の衣の御仲らひ」の「あかぬ別れ」 が指し示すものを明らかにしたい。『石清水物語』についても、歴史物語や史実の系譜の影響がないかを検討したい。
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